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昔の新聞点検隊

秋の味覚・イナゴが大人気!

松本 理恵子

【解説】 【現代風にすると】

拡大1972(昭和47)年10月11日付東京本社版朝刊15面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています

【当時の記事】

イナゴに群がる人・人・人
害虫どころか高級ツクダニ “自然の味”といまや大モテ

 農村は、いま収穫たけなわ。豊作もさることながら、ことしはどこもイナゴが多いという。以前はどこにでもいたこのイナゴ、大量にまき散らされた農薬で、トンボやドジョウとともに姿を消していたところが多かった。それが四十一年ごろからはじまった農薬規制と、ことし三年目になる米の生産調整による休耕田のおかげで、最近急によみがえったらしい。イナゴが多い、という各地を回ってみた。

 いずれも以前は大々的に共同防除をしていた穀倉地帯。一歩踏入ると、ピョンピョン、ピョンピョン、イナゴが飛散る。「イナゴやドジョウのいる田が本当の田」とお百姓たちはいう。イナゴは害虫といわれてきたが、もともと稲にそれほど害を与えるものではないともいう。

 イナゴはつくだ煮になる。東京・築地のおそうざい卸店でこんな話を聞いた。「いまや、イナゴのつくだ煮は高級な珍味。近くのおかず屋さんでは手にはいらんでしょう」。原料不足で、去年まで韓国からの輸入で急場をしのぐ状態だったという。デパートあたりでは百グラム三十匹ほどで二百円(上野・松坂屋)。つくだ煮としては、ワカサギと肩を並べる高級品。そんなイナゴが急にふえたのだから、ちょっとしたイナゴ騒動が起っても不思議はない。

●マイカー殺到

 山形県では、昔からよく食べた。赤くゆであがったイナゴを、砂糖としょうゆで三、四時間ほど煮つめた“いりイナゴ”は、かつては貴重なカルシウム源。秋から正月にかけてのお茶うけ、おかずである。主婦たちは、秋になると「ナンゴへめにいかねか」(イナゴ取りにいかないかい)と誘い合って、春の山菜取りのように田へ出かけた。農家の主婦は、イネを刈りながら取った。

 しかし、ここでも四年ほど前までは、イナゴを買って食べるほどに減ってしまった。それが一、二年前から尾花沢市内で“大発生”。山形、天童、村山の各市などからマイカーやマイクロバスで、イナゴ取りの客が尾花沢へ殺到しはじめた。刈取り前の田にまではいって、地元ではイナゴの害より人災に悲鳴をあげた。「イナゴ取り禁ず」の看板も効果なく、農協、市、農業改良普及所が相談の結果、ことしはついにイナゴの多い丹生川流域中心の田で三年ぶりの共同防除に踏切った。「イナゴはいいが、イナゴがいると、人が集る」という窮余の策。

 尾花沢農協の農産指導部長さんは「米がこんな情勢のとき、イナゴのいる田で取れた自然米といえば、絶好のPRになります。が、それをいえば、人が集って田が荒される」と頭をかかえている。

●学校でコンクール

 ササニシキの本場、宮城県古川地方ではハッタギという。食べる習慣はないが、いまも学校ぐるみのイナゴ取りが盛んだ。教材費や遊具の不足を補うためである。学校専門にイナゴの集荷をして二十六年になるという遠田部田尻町の花島みよ子さん(六〇)は、約七十の小、中学校から集めるイナゴが今年五十トンを超えるとみている。去年がいちばん少なかったが、ことしは急にふえたという。

 田尻中学校(生徒数九百六十九人)の場合、一日一人三キロを目標に二日間集め、何年かぶりに三トンを上回って売上げ百五十万円。生徒たちはイナゴ取りの日、朝六時ごろから家を出、ねらった場所で取る。男子生徒はカエルをとったりしながらも午前中で目標量を上回る。女子の中にはおしゃべりが過ぎて午後も自転車で田へ出かける生徒も。しかし、個人表彰、学級表彰もあるイナゴ取りはみな楽しそうだ。家族の応援を頼んで入賞をねらうちゃっかり組もあり、ことしの個人最多賞は、二日間で十二キロの三年生男子。

 同校はことし四月、三中学が統合したばかり。学校全体の融和をはかるため、イナゴの売上金の一部でバス二十台をチャーター、二十日には全員でキャンプに出かける。田尻町の教育長さんは「いまさら児童、生徒にイナゴ取りでもあるまいという声もあるが、都会の子には味わえない楽しい行事として残してやりたい」といっている。

●喜ぶお年寄り

 千葉県旭市地方ではハットリと呼ぶ。急にふえたこのイナゴに喜んでいるのはお年寄りたち。以前は子どもが取ってきてニワトリのエサにした程度のイナゴが、一キロ二百八十円から三百円で売れるとあって、ひまなお年寄りが孫のお守りをしながらイナゴ取り。集荷業者の話では、一日一人平均二千円分は取ってくる。イナゴを売った金で孫にお菓子を買って帰る人が多いという。

 「この年になって自分の手でお金が取れるということがうれしい。もう少しで一万円になる。オラは全部ためてある」と同市東琴田の七十七歳のおばあさん。隣に住む七十九歳のおばあさんも「全くだ」とうなずく。一万円というのは九月はじめから取っての売上げ。腰が曲って、目もよくきかない。十匹いても、取れるのは一匹ぐらい。一日取って百円ということもあるそうだ。だが、高齢なこのおばあさんにとって、イナゴ以外に自分で何かを“生産”するチャンスは少ない。「昼間になるとよく飛ぶ。だから朝四時に起きて出る。田んぼや畑を動き回っていると、メシがうまい」ともいった。

(1972〈昭和47〉年10月11日付東京本社版朝刊15面)

【当時の記事】 【現代風にすると】

【解説】

 秋の味覚といえば何が思い浮かびますか? 栗、柿、マツタケ……。イナゴという方もいるのではないでしょうか。長野県の伊那市ではこの時期、網袋に入ったイナゴが生きたまま売りに出されます。家庭で「つくだ煮」を作る主婦らが買っていくそうで、今年も9月末に販売が始まったとか。今年は1キロ3800円だったそうです。

 イナゴは日本で食べられている昆虫の中でもっともポピュラーな存在と言えます。食用としての歴史は古く、その記録は平安時代にさかのぼるそうです。海から離れた内陸部で魚の代わりのたんぱく源とされてきたほか、沿岸部も含め日本全国で広く食べられていました。栄養価は高く、たんぱく質やカルシウムが豊富で低脂肪なので、最近では健康食品としても注目されています。「日本食品標準成分表2010」によれば、つくだ煮100グラムで247キロカロリー。和牛のサーロイン(赤肉)317キロカロリーやヒレ(赤肉)223キロカロリーに比べてもひけをとりません。

拡大1936年11月4日付「一般に勧めたい『いなご』の料理」
 1930年代の紙面ではイナゴを食材として紹介する記事が見られます。栄養が豊富で貯蔵もきくと長所を並べ、調理方法を丁寧に説明。「つくだ煮や揚げものにいかが」と勧めています=画像

 かつては、どの田んぼにもいたイナゴですが、稲の害虫とされ、50年代からは農薬の大量散布で急激に数が減り、食べるほどの量がとれなくなってしまいました。しかし、環境汚染や残留農薬の毒性への意識が高まり、70年代に農薬の使用が規制されると、イナゴの数は増え、田んぼでまた見られるようになったのです。

 今回紹介するのはまさにその頃、イナゴが復活した時期の記事。イナゴが急に増えたので「イナゴ騒動」が起きていると報じています。1972年と比較的最近の記事なので、紙面の体裁が今と似ていて読みやすいです。

 まず目につくのが、見出しの「高級ツクダニ」。カタカナだと、何のことか少しわかりづらい気がします。記事の中では「つくだ煮」としているので、見出しも「つくだ煮」にそろえてもらいましょう。また、記事中で「稲」「イネ」と表記が分かれているのも、統一するよう指摘します。

 秋はイナゴのシーズン。稲刈りが終わる頃のイナゴは丸々と太ります。イナゴがいると聞くと人が集まってきて田を荒らす、というのですからイナゴ人気は相当のものです。

 

 学校ではイナゴ捕りのコンクールがありました。全校総出でイナゴを捕り、たくさん捕ったら個人表彰や学級表彰があるという本格的なものです。記事には、宮城県の生徒数969人の中学校で、2日間で3トン以上を集めたとあります。個人の最多賞は12キロを集めた3年生の男子生徒。集めたイナゴは集荷業者に売り、150万円もの売り上げがあったといいます。売上金の一部でバス20台をチャーターし、キャンプに出かけたそうです。このように、イナゴの売り上げは学校の運営費にあてられることが多かったようです。

 イナゴはピョンピョンはねますから、それを捕まえるイナゴ捕り競争は子どもたちにとって楽しい行事という一面もあったのでしょう。

 お年寄りもイナゴ捕りに励んでいました。以前は鶏の餌にした程度だったのに、今は1キロ280円から300円で売れるとあって、「ひまなお年寄り」が孫のお守りをしながら、とあります。

 ここで、お年寄りを「ひま」と決めつけているのはひっかかります。ほかにも「腰が曲って、目もよくきかない。十匹いても、取れるのは一匹ぐらい」「高齢なこのおばあさんにとって、イナゴ以外に自分で何かを “生産”するチャンスは少ない」など、お年寄りは役立たずと言っているように読めます。「イナゴはすばしこいので捕るのは難しい」などと書き方を変えてもらいましょう。

 記事には、「朝から動き回っているとメシがうまい」というおばあさんのコメントがあります。いい運動になり、お金も入るとは、イナゴ捕りは一石二鳥なんですね。

拡大デパートで購入したイナゴのつくだ煮。サクサクと香ばしく肉厚でした
 さて、こんなにも人が群がる魅惑的なイナゴ。私は今まで食べる機会がなかったのですが、エビに似ているというその味が気になって食べてみました。東京・日本橋のデパートで、つくだ煮屋さん「丸仁」(東京・柴又)のイナゴのつくだ煮が100グラム630円で売っていました。甘辛いつくだ煮の味に、サクサクと香ばしく肉厚で、おいしい! 多くの人に好まれるのも納得です。

 今もイナゴ捕りをしているという学校は少ないと思いますが、秋にはトリコ(捕り子)と呼ばれる採集業者の人たちが現地でイナゴを集めます。網をつけたバイクで田んぼのあぜ道を走るなどして捕まえるそうです。群馬県中之条町では、イナゴ捕りやイナゴのジャンプ大会などの「イナゴンピック」という町おこしイベントを行っており、今年で5回目を数えます。イナゴを追って秋の一日を自然の中で過ごす。気持ちがよさそうですね。

【当時の記事】 【解説】

【現代風の記事にすると…】

イナゴが大人気 害虫どころか高級つくだ煮

 (略)

●喜ぶお年寄り

 千葉県旭市地方ではハットリと呼ぶ。急にふえたこのイナゴに喜んでいるのはお年寄りたち。以前は子どもが捕ってきて鶏の餌にしたが、今は1キロ280円から300円で売れるとあり、孫の世話をしながらイナゴを捕る人が多い。集荷業者の話では、1日1人平均2千円分のイナゴを捕るそうだ。イナゴを売った金で孫にお菓子を買って帰るという。

 「自分の手でお金が取れるということがうれしい。もう少しで1万円になる。全部ためてある」と同市東琴田の77歳のおばあさん。隣に住む79歳のおばあさんも「全くだ」とうなずく。1万円というのは9月はじめからの売り上げだ。イナゴはすばしこいので捕るのは難しいが、おばあさんたちはイナゴ捕りを楽しんでいる。「イナゴは昼間になるとよく飛ぶ。だから朝4時に起きて捕り始める。田んぼや畑を動き回ると、メシがうまい」と話した。

 (元の記事の一部のみを現代風にしています)

(松本理恵子)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

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