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昔の新聞点検隊

子どもに人気! 淡水魚の水族館

森本 類

拡大1937(昭和12)年6月13日付東京朝日夕刊4面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています
【当時の記事】

井之頭公園 水族館を見る 人気を呼ぶ珍らしいお魚

☆…水が恋しい夏が訪れました。緑林の公園、東京井之頭公園にはこの間東京市営水族館が開設されてコドモさんたちの人気を集めて居ます。

 海に面して居ない場所なので淡水魚即ち、湖や川に居る魚と美しく珍しい熱帯魚などばかりですが、呼物となって居るのは満洲から飛行機で八時間で運ばれて来た「すっぽん」だの、台湾や南支那の河に居る「鰱魚」 この魚はウロコを身につけて居らず長いひげを垂らして見物の子供さんを大口をあけて不機嫌さうににらみつけます。両眼は頬の下部にあるのです。

 ☆…「草魚」といふのも台湾や支那に居る珍しい魚です。この魚は

 名の通りに草ばかりを食べて生長するとのことでした。子供さんが喜ぶ「ざりがに」も居ます、プールの中に設けた木に登って、曲芸師みたいにいろんな動作をします 「鮎」は今が僕たちの時季だといふやうに銀鱗を光らせて泳いで居ます。「山椒魚」は妙なグロな恰好で泳いだり、匍ひ廻ったり、大きな「鰻」は砂の中に身体をつき込んで頭だけ出して居ります。

 ☆…熱帯魚はストーブで温められた室に居ます。みんな、とても美しく元気でした。わけて「センゼル・フィッシュ」といふ小魚など三角形の美しい姿で群をなして游泳して居ます。写真は鱒と鰱魚です。

(1937〈昭和12〉年6月13日付 東京朝日 夕刊4面)

【解説】

 世界有数の魚消費国、日本。そんな背景もあるのでしょうか、水族館の普及率も世界一だそうです。普段はなかなか目にできない水中での魚たちの様子が見られるとあって、子どもから大人まで幅広い世代の人気を集めます。今年は日本に登場してからちょうど130年の節目にあたります。

 水族館第1号は、1882(明治15)年、上野動物園の一角にオープンしました。「観魚室」と書いて「うおのぞき」と読みます。15ほどの水槽に淡水を入れ、金魚やテナガエビ、サンショウウオを展示していたそうです。大型の海洋回遊魚などが生き生きと泳ぐ今の水族館と比べると、とてもシンプルな施設でした。今回は、やはり淡水魚を中心に扱う、東京・井の頭自然文化園分園の「水生物館」にスポットをあてます。

拡大井の頭公園の水族館が完成、端午の節句(5月5日)に開館すると伝える記事=1935年4月25日付東京朝日朝刊13面
 点検しながら記事を読んでいきましょう。冒頭で気になるのは、「この間」水族館が開設された、というくだり。井の頭自然文化園のホームページによると、水生物館がオープンしたのは1936(昭和11)年。記事の年からみると、前年にあたります。それを指しているとすると、「この間」とするのは少し乱暴です。「近いうち」と言いつつなかなかやってこない、という例もありますが……。当時の紙面を探してみると、35年に完成し、近く開館するとした記事=左の画像=もありました。「昨年」「一昨年」などとしなくてよいか、確認を求めましょう。

 また、記事では井「之」頭公園という表記を使っていますが、現在では「の」とするのが一般的です。校閲記者としては注意を払わないといけない地名のひとつで、「井の頭」は公園のほか駅名や三鷹市の地名に、「井之頭」は学校名に使われています。さらに「井ノ頭」という街路名もあるので気を抜けません。政治の記事を読む日は、「霞が関」が地下鉄駅名の「霞ケ関」になっていないか目を光らせています。

拡大ソウギョとレンギョは戦後も国内で養殖が試みられました。記事中の写真は利根川で釣り上げられたレンギョ=1966年11月15日付東京本社版朝刊14面
 「センゼル・フィッシュ」は初め、聞いたことのない珍しい魚なのかと思いました。記事をよく読むと「群れをなす三角形の小さな熱帯魚」とありますので、エンゼルフィッシュとみて間違いないでしょう。記者が聞き間違えただけかもしれませんが、「『センゼル・フィッシュ』といふ小魚など」という書き方から見ても、当時はまだ知名度が低かったようです。

 末尾の写真説明「写真は鱒(マス)と鰱魚(レンギョ)です」は、現在なら写真のすぐ近くに置きます。写真の画像が鮮明でないため、本当にその魚か確かめるのは難しいですが、それ以外に少し気になることがあります。レンギョの方は「大口をあけて、不機嫌そうににらみつけている」といった描写がありますが、マスについては一言も触れていないのです。写真か本文に何かしらの説明を入れるか、本文に登場する魚が写ったほかの写真に差し替えるのが自然でしょう。

 記事には多彩な魚たちが登場しますが、「草魚(ソウギョ)」と「鰱魚」は初めて聞く名前でした。どちらも中国や台湾から連れてきたようですが、いったいどんな魚なのでしょう。

拡大放流するために中国から輸入したソウギョが東京に到着したと伝える記事。記事中の写真はソウギョの稚魚=1943年2月14日付東京本社版夕刊2面
 「日本の淡水魚」(学研刊)によると、レンギョはハクレンとコクレンに分かれ、ソウギョを含めいずれもコイ目コイ科。記事の通り、レンギョは目が体の中央より下にあるのが特徴です。中国ではとても身近な魚で、ハクレン、コクレン、ソウギョにアオウオを加えて「4大家魚」と呼ばれます。この4種は食性がそれぞれ異なり、それを上手に利用することで一つの沼や池で食物連鎖を完結でき、簡単に養殖できるのです。中国では1千年以上も前に確立されていたシステムだといいます。

 川が大きい中国の生まれだけあって、多くの日本の在来種よりけた違いに大きく、体長は1メートルにもなります。日本には観賞用だけでなく、1878(明治11)年から敗戦にかけて数回にわたり輸入され、放流されました。戦時中の栄養不足を解消するべく、たんぱく源として注目されたのです。

 しかしよく育ちはしても、なかなか繁殖しませんでした。戦後になって理由がわかります。川魚はふつう、卵を流されないよう、水草に産みつけたり砂に埋めたりします。ところが家魚は、そうした工夫をしません。中国の大河は流れがゆるやかで、河口に流れ着くころには稚魚になっているからです。いっぽう日本の川は短く流れが急なため、卵がかえる余裕がありません。日本で繁殖したのは、利根川のような広い川だけだったようです。

 再び「日本の淡水魚」の言を借りると、ソウギョは甘酢あんかけなどの加熱調理に向き、コイより美味なのだとか。水族館で魚を「おいしそう」と見る人がいるのは日本くらいだそうですが、きれいに食べられてこそ成仏する、ともいいます。食卓の「魚離れ」が言われて久しい昨今、まずは水族館で魚たちとの距離を縮めるのもいいかもしれません。

【現代風の記事にすると…】

人気を呼ぶ珍しい魚たち 井の頭公園の水族館

 水が恋しい夏が訪れた。緑が豊かな東京市の井の頭公園には昨年、市営水族館が開設され、子どもたちの人気を集めている。

 海から遠いため、展示されているのは湖や川の淡水魚と珍しい熱帯魚だ。満州から8時間かけて飛行機で運ばれてきたスッポンや、台湾や中国南部の川にいるレンギョの人気が高い。レンギョにはうろこがなく、長いひげと大きな口をもつ。目はほおの下につき、不機嫌そうに見物客をにらみつけている。

 ソウギョも台湾や中国にいる珍しい魚だ。「草魚」の名の通り、草を食べて成長する。子どもに人気のザリガニは、プールの中の木に登って、曲芸師さながらの動きをする。アユは今が自分たちの時期だと言わんばかり、銀のうろこを光らせて泳いでいる。サンショウウオは妙な格好で泳いだり、はい回ったり。ウナギは大きな体を砂の中に突っ込んで頭だけ出している。

 熱帯魚はストーブで温められた部屋の水槽にいる。三角の形をした美しいエンゼルフィッシュは、群れをなして泳いでいる。

 【写真説明】レンギョ(中)と同じ水槽で泳ぐマス(下)

(森本類)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください