メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

昔の新聞点検隊

拡大

【当時の記事】

警官の素質改造に特殊の教育を施す
管下の巡査全部に十日間づつ 来月早々から実行

最近警察官の瀆職事件を始め一般民衆取締等につき外部からの非難があるばかりでなく、都下に続発する殺人、強盗等の血なま臭い犯罪が往々にして

最初駆けつけた交番勤務の巡査等によって凶行現場を荒されてしまひ大切な指紋、足跡その他の証拠は自然的に消滅され犯人捜査上に非常な困難を生ずることになるがこれは一般警官の教養に不足のあることを如実に物語ってゐるものであるといふので警視庁ではこれまでの失敗に鑑み丸山総監以下幹部は鳩首対策の考究中であったが高橋警務部長は大英断の案を立てこの際

管下一万一千の巡査に更に特殊教育を施すことに決した その方法は都下八十二警察署から勤務に差支ない範囲で三人づつ二百五十名の巡査を十日間教習所で特殊教育を授けそれを巡ぐりにくり返して一ケ年で全部の巡査の教養を終ることになるのである、この教養は今回に限らず永久的に存続せしめ絶えず警察官に刺激を与へる計画であるからもしこの教育実施の模様によっては将来の警官は毎年一回十日間の特殊教養を受けることになるから従来の如き非難は

一掃されることと見られてゐる 差当りこれが教養の任に当る教官の選抜については都下各署司法主任その他の優秀の主任五十人を選抜してまづ教官養成の教育を施すことになり十四日より三週間警視庁講堂で各専門の課長以上の幹部がみっしり教育しその内更に優秀の者十名を選抜して教官に任命することになり一般巡査の教育は来月早々開始することになった

(1930〈昭和5〉年4月16日付 東京朝日 夕刊2面)

【解説】

 警察の不祥事が止まりません。先月も、パソコンの遠隔操作ウイルスによる誤認逮捕が問題になりました。近ごろは、警察の不手際が伝えられても「またか」と思うだけで、そこに驚きはありません。

 80年前の警察も不祥事に悩まされていたようです。記事冒頭の「瀆職(とくしょく)」は今ではあまり見かけない言葉ですね。「職をけがす」という意味で、特に公務員の収賄などの不正行為を指します。法律用語として使われていた時代もありましたが、「瀆」の字が戦後、漢字を制限した当用漢字に採用されなかったため次第に姿を消しました。現在では「汚職」の方が一般的ですね。

 一方で、当時の警察で不祥事以上に問題視されたのが、お粗末な捜査。犯行現場に駆けつけたはいいものの、動き回っている間に指紋や足跡などの証拠をダメにしてしまうというのです。犯人逮捕につながる貴重な物証だけに、記事にあるような「自然に消えちゃった」で済む話ではありません。

 事件現場の保存は、捜査における基本中の基本。警察も対策に頭を悩ませたことでしょう。考え出されたのが、巡査を対象にした研修です。管内82の警察署から3人ずつ選んで10日間。1万1千人の全巡査が研修を終えるのには、単純計算で約1年3カ月かかるはずです。記事では「一ケ年で全部の巡査の教養を終る」「毎年一回十日間の特殊教養を受ける」と、期間の書き方がややアバウト。もう少し正確に書いてほしいところです。

 1回では終わらせず永久的に続けるという研修。各署から「優秀の者」を選び抜き、みっしり(ここは「みっちり」の方が自然でしょうか。「みっしり」だと、隙間なく詰まっている様を思い浮かべます)と教育して専任の教官に育て上げる力の入れようです。警察組織の危機意識が強くうかがえますね。

拡大不祥事防止の取り組みは大きな課題だ=2012年8月9日付東京本社版夕刊10面

 しかし、研修の対象は警察官の階級で一番下にあたる巡査だけ。ということは、一つでも昇進したとたんに解放されるというわけです。記事からはどんな研修が行われるのか分かりませんが、せっかくの機会なのだから対象をもっと広げればいいのに、と思ってしまいます。

 さて、時代は移り、現在の警察は不祥事対策に待ったなしです。警察庁によると、今年1~6月に懲戒処分を受けた警察職員は200人を超え、うち最も重い免職は前年同期比で倍増の31人。過去10年で最悪の人数です。この事態を受け警察庁は今年8月、「警察改革の精神」を徹底させるための12の施策をまとめ、全国の警察に通達しました。事件相談への迅速・確実な組織対応▽不祥事の再発防止対策の強化▽中堅幹部の資質の向上▽警察職員の使命感と誇りを醸成する施策の推進など、その内容は多岐にわたります。

 残念ながら、通達後も相変わらず不祥事は続いています。一日も早く警察が国民の信頼に堪える組織に生まれ変わることを願ってやみません。

【現代風の記事にすると…】

全巡査に研修実施 警視庁 捜査技術向上目指す

 警視庁は、警察官の捜査技術を向上させるため、管内の全巡査を対象に研修を行うと発表した。

 丸山鶴吉警視総監ら同庁幹部は、不用意な初動捜査を繰り返す交番勤務の巡査らを問題視している。殺人や強盗などの凶悪事件の現場を荒らしてしまい、指紋や足跡などの重要証拠を採取できず、その後の捜査に支障が出ていた。同庁は、警察官の教養不足に原因があると判断。汚職や強引な取り締まりなど警察官による不祥事が続いていることもあり、研修導入に踏み切った。

 管内の82の警察署から勤務に影響のない範囲で3人ずつ集め、約250人ごとに10日間の研修を実施。1万1千人の全巡査が研修を終えるまでに1年3カ月かかる。1回限りではなく永久的に続け、警察官に絶えず刺激を与える計画だ。

 まずは教官役の育成から着手し、各署の司法主任らから選ばれた50人に警視庁講堂で14日から3週間にわたり講習を受けさせる。分野ごとに専門知識のある課長以上の幹部がみっちり教えた後、優秀な10人を選抜して教官にするという。

 巡査への研修は5月から始める予定。順調にいけば毎年のように研修を受けることになるため、従来のような不手際は一掃されると同庁幹部は見ている。

(永川佳幸)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください