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昔の新聞点検隊

その強さヘビ~級? タニシの底力

永川 佳幸

拡大1934年9月26日付東京朝日朝刊15面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています
【当時の記事】

食ふか、食はれるか
蛇・田螺の闘争
問 蛇と田螺はどちらが強いか?
答 断然田螺が強かったです……
ノビちゃった蛇

【佐野電話】 蛇と田螺との珍妙な取組で夏旧盆の十五日午後と、秋彼岸中日の午後と二回に亙り猛烈な闘争が開始され遂に蛇は闘争に惨敗してのたうち廻り殪れた、場所は両毛線佐野駅裏城山公園下、東武鉄レール側溝(湧き出づる清水の中) 見物者駅員多数 蛇は二尺大のやまかがしで城山公園を下った代物、田螺は側溝にわき出でた一銭銅貨大のもの

×   ×

最初の闘争では蛇は田螺に上顎を挟まれ、これを振落さんとて鎌首をもたげてのたうち廻り田螺は蓋を閉ぢて放さず蛇は疲れてのびた、第二回目は両顎を挟まれて同様のびたがこの際田螺は駅員の手で側溝からレールに引き出される時殻を破って肉を露出して闘争したが遂に勝って蛇を締め殺して後蓋をゆるめて蛇を放った

(1934〈昭和9〉年9月26日付 東京朝日 朝刊15面)

【解説】

 早いもので、年が明けてからもう2週間が過ぎてしまいました。みなさま、昔の新聞点検隊を始め「ことばマガジン」を今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、2013年は巳年(みどし)ということで、今回はヘビにまつわる小話をお届けします。

 ヘビ異種格闘技戦――。そう聞くと、ハブとマングースの戦いを思い浮かべる方も多いでしょう。しかし今回、対戦相手に名乗りを上げたのはまさかのタニシ。水田などで見かける、あの小さな巻き貝です。思いもかけない組み合わせに、興味津々。とはいえ、話のスケールが小さすぎて、現在なら紙面に載ることはまずないでしょう。そんなものすら載せてしまうなんて勇気があると言いますか、そこが昔の新聞の面白いところです。

 では選手を紹介しましょう。

 まずリングに上がったのはヤマカガシ。本州、四国、九州と全国に生息し、アオダイショウやシマヘビとともに日本ではポピュラーなヘビの一種です。体長は大きいもので150センチを超えるものも。今回試合に臨むのは、2尺=60センチ程度で軽量級ですね。「必殺技」は、血を固まらなくする毒。相手に内出血を引き起こし、時には全身の血液を交換しなくてはならないほど危険な状態に追い込みます。

 対するタニシ。世界各地の淡水に生息し、日本にはオオタニシ、マルタニシ、ナガタニシ、ヒメタニシの4種がいます。藻や水底の沈殿物を主に食べ、体を包む殻の大きさは数センチ。今回のものは当時の一銭銅貨大ということで、3センチにも満たない大きさです。

 両者が相まみえたのは、「夏旧盆の十五日午後と、秋彼岸中日の午後」の2回。この日時の書き方は、少し改善してもらいましょう。

 まず1回目の対戦。旧盆の時期はもともと旧暦の7月15日でしたが、明治初期に新暦が導入されてからは8月15日を指すのが一般的です。一方で、今回の記事は9月に掲載されたものなので、「十五日」とだけ書くと9月15日のことだとも読めます。無用な混乱を避けるためにも何月なのかはっきりと書いてもらいましょう。

 また、「秋彼岸中日」もだいたいの時期は分かりますが、日付があった方がより明確になって読者に親切です。彼岸の中日は秋分のことなので、当時だと9月24日になります。

拡大冒頭で取りあげた記事の8年前の「たにしの大手柄」の記事。当時はタニシvsヘビが今より身近だったのでしょうか=1926年6月13日付東京朝日朝刊11面
 公園近くの側溝に設けられた「試合会場」には、珍対決を一目見ようと多くの見物人が集まり、かなりの盛り上がりを見せたようですね。

 佐野駅と佐野城跡に開設された城山公園はいずれも現存する施設で、現在の栃木県佐野市にあります。全国にいる読者におおよその位置が分かった方がいいので、記事には「栃木県」を書き加えてもらいます。また、佐野駅にはJR両毛線と東武鉄道佐野線が乗り入れていますが、記事には「東武鉄」というワードが出てくるので、それに合わせて「両毛線」を「佐野線」に直してもらった方がベターでしょう。

 時にはヒキガエルすら食べてしまうというヤマカガシを前に勝負にすらならないかと思われた戦いも、ふたを開けてみればタニシの2戦2勝。殻から飛び出してヘビを締め上げるだなんて、にわかには信じられません。しかし、その実力は確かなもののようで、今回のものより大きい180センチもあるヘビをノックアウトしてしまった記事も過去にありました。

 「たにしが蛇の上あごをくはへて大格闘をしてゐた……蛇は手の出しやうがなく五時間余も苦しんで遂に蛇は往生した」

 おとなしいだけの生き物かと思っていましたが、私はアイツのことを侮っていたのかもしれません。

【現代風の記事にすると…】

食うか、食われるか ヘビとタニシの対決

 ヘビとタニシによる珍妙な対戦が、栃木県佐野市で、盆の8月15日午後と彼岸中日の今月24日午後の2回にわたり行われた。「試合会場」は、東武佐野線の佐野駅裏にある城山公園近くの側溝。ヘビは、城山公園からやって来た体長約60センチのヤマカガシ。これに挑んだのは、側溝にすむ3センチほどの大きさのタニシだ。両者の対決を一目見ようと、多くの駅員が集まった。

 第1戦。ヘビはタニシに上あごを挟まれ、振り落とそうとして鎌首をもたげてのたうち回ったが、タニシはふたを閉じて放さず、ヘビはのびてしまった。

 続く第2戦でもヘビは両あごを挟まれて、手も足も出ず終始劣勢。駅員が引き離そうとしても、タニシは殻から飛び出してまで放そうとせず、ついにヘビを絞め殺してしまった。

(永川佳幸)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください