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昔の新聞点検隊

コリコリ苦労の世論調査

拡大1946(昭和21)年8月5日付東京本社版朝刊1面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています

【当時の記事】

本社輿論調査/七月一日現在

本社では去る七月一日現在を期し、東京大阪、西部三本社協力の下に二十万票の調査票を配布して

 第一問 「吉田内閣を支持しますか」

 第二問 「もし近く総選挙があるとすればどの政党を支持しますか」

の二つの課題のもとに、全国的な輿論調査を実施し、現下の政治動向にたいし国民輿論の動きにたいする本格的な調査を行った、すなはち今回の調査は去る四月幣原内閣総辞職後の長い政局の昏迷期をへて五月吉田内閣が成立し、七月に入って議会も開かれ、現内閣の性格が一応明かとなった七月一日現在の政情を条件としたもので、このうち北海道の分は事情あって発表できなかったが残る一都二府四十二県の回収票数は十二万七千四百三十六票、このうち無効票を除いて整理集計の結果をここに発表する

 第一問 吉田内閣を支持しますか

  支持する  三九、五一九  三二・三%
支持せず  四五、二九二  三七・一%
態度保留  三七、四一六  三〇・六%
 計   一二二、二二七  一〇〇%



 第二問 どの政党を支持しますか

  進歩党  一二、三五五  一〇・一%
自由党  二八、八一〇  二三・六%
社会党  四九、八四三  四〇・八%
共産党   五、九〇三  四・八%
協同民主党  六、三四八  五・二%
諸 派   一、一一四  〇・九%
どの政党も
支持せず
 一七、八九四  一四・六%
 計  一二二、二六七  一〇〇%


(1946〈昭和21〉年8月5日付 朝日新聞東京本社版朝刊1面)

【解説】

 7月の参院選が近づいてきました。朝日新聞は随時、様々な世論調査をしていますが、国政選挙の前後は、政治に関する考えを問う調査が多くなります。

拡大この日は1面に各地の支持率一覧表(左下)も載せるなど、世論調査の結果を手厚く報じた=1946年8月5日付東京本社版朝刊1面
 でも、世論調査って、いつからやっているんだろう? そんな疑問から、朝日新聞に掲載された一番古い世論調査を探してきました。今回ご紹介するのが、その紙面です。

 内閣支持率を報じる近ごろの紙面とは、だいぶ違います。全国各地の支持率の一覧表が掲載されていますが、いまの新聞1面ではまずあり得ません。

 掲載は1946(昭和21)年8月5日なのに、調査したのはなんと7月1日。支持率の調査から掲載まで1カ月もかかっています。今では考えられません。

 朝日新聞の世論調査の歴史をたどる前に、しばし校閲。「幣原内閣総辞職後の長い政局の昏迷期」とありますが、今なら「昏迷期」は「混迷期」とするところです。

 「北海道の分は事情あって発表できなかった」の「発表」も気になります。調査結果の「発表」となると、公的機関のようです。「掲載」などとしては、と提案してみます。

   ◇   ◇   ◇

 第2次大戦が終わると、世論調査の担当部署が、報道各社に次々と誕生します。朝日新聞でも、敗戦から3カ月後の45年11月、「輿論調査室」ができました。質問の作り方から実施方法まで、すべてが手探りでした。

 まず翌年3月、記事化に値する調査ができるかどうか、実際に調査票を配布して「テスト」を実施します。朝日新聞社史によると、質問は「どの政党を支持されますか」の1問だけだったそうです。

 このテストの結果を受けて問題点を改善し、実施されたのが冒頭で紹介した世論調査で、自由党の吉田茂が組閣してから1カ月ほどして、(第1次吉田)内閣を支持するかどうかを聞いたのです。このとき全国で配った調査票は20万、調査票の配布と回収を担当した調査員は4500人にのぼりました。

 初期の世論調査の様子がうかがえる一冊の書物があります。朝日新聞で世論調査室主査をつとめた故今村誠次氏の「世論調査の基礎知識」という本です。

 それによると、調査員に対する指示は、今では考えられないほど大雑把でした。「男七割、女三割の比率を標準に」「なるべく各職業、各階層に公平に配るようにし、偏せぬよう留意されたい」などというもの。今の調査の厳密さには、遠く及びません。

 ただ、事務作業はかなり大変だったと思われます。

 今村氏は「一カ月ほどのロウ城で集計し、調査カードがボロボロになって、全員コリコリ」することもあったと記し、「あぶなっかしい足どりで、一人歩きもできなかったため、自信もなく、雲をつかむような気持ちであり、もがいていた時代であった」と振り返っています。

 電卓もコンピューターもなかった時代。そろばんなどを使って、気の遠くなる作業をしたのではないでしょうか。当時の苦労が目に浮かびますね。

   ◇   ◇   ◇

 最初は20万という今では考えられない数の人を対象にした世論調査も、回答者を公平に選べば、数千人でも日本全体の平均像が得られることが分かってきます。確率論に基づく合理的、科学的な調査へと改良が重ねられました。

 現在の世論調査の方法は、大きくわけて「面接」「郵送」「電話」の三つ。

 「面接」は実際に回答者に会って調査するもので、古くから行われている方法です。「郵送」は質問を送って回答してもらう方法。長い文章の質問も、じっくり考えて答えてもらえる利点があります。

 しかし、面接も郵送も、調査の準備や実施に時間がかかり、速報性に欠けます。80年代になると、報道各社が「電話」による調査を実施するようになりました。現在の朝日新聞も、内閣支持率や大きな出来事があった時の緊急調査は電話で行っています。

 皆さん、「朝日RDD」方式、という語句を紙面で見たことはありますか。世論調査の結果を報じる最近の紙面でも、「調査方法」という項目の中に出てきます。

 「RDD」は「Random Digit Dialing(ランダム・デジット・ダイヤリング)」の略。簡単にいうと、コンピューターで無作為に作成した番号に調査員が電話をかける方式です。これだと、電話帳に番号を載せていない人にも接触することができるのです。

 調査方法の改良が続けられてきたのは、「有権者全体の縮図」により近づき、より確かな調査結果をお伝えするためです。皆さんのもとにも、ある日、世論調査の依頼が舞い込むかもしれません。その時は、より確かな世論調査にするため、ご理解とご協力をよろしくお願い致します。

【現代風の記事にすると…】

吉田内閣支持32%/不支持は37%/朝日新聞社世論調査

 朝日新聞社は7月、全国で世論調査を実施した。吉田内閣の支持率は32.3%、不支持率は37.1%だった。政党支持率は社会党40.8%▽自由党23.6%▽進歩党10.1%▽支持政党なし14.6%など。

 本格的な世論調査は本社では初めて。配布した調査票は計20万、回収率は63.7%だった。

 〈おことわり〉調査に不備があった北海道分は、集計から除きました。

(高島靖賢)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください