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昔の新聞点検隊

かまぼこは愛の証し

桑田 真

1964(昭和39)年10月20日付朝刊11面拡大1964(昭和39)年10月20日付朝刊11面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓等については、原則として記入を省いています

【当時の記事】

結婚指輪―男心と女心 交換するカップルが増加
女性の声「二人で同じものを…」 男性の声「ちょっとテレくさい」

 交換して、いっしょにはめていたいというK子さん。いや、きみがはめているのはいいが、僕はしないというOさん。「かまぼこ」と呼ばれている結婚指輪をめぐって近く結婚式を挙げようという二人が論争中です。どちらがいいという問題ではありませんが、結婚指輪をめぐる男心、女心を探ってみると――

 男性の多い職場を見ると結婚指輪をはめている人は、あまりいません。「オレたちが結婚したころは指輪の話なんか問題にならなかったね。後で女房にねだられて、女房の方はしてるけどね」という人が大部分です。

 確かに、結婚指輪をしている男性をよく見かけるようになったのは、最近のことです。この秋の大安の日は、一日四十組ものカップルが誕生しているという東京の明治記念館できいてみると、指輪を交換する人がふえたのは、この一、二年のこと、ことしになってから挙式した人たちの約半数が、交換しているといいます。明治記念館の場合、挙式は神式ですから、式次第の中に、指輪の交換は入っていないわけですが、ふつう三三九度の杯のあとに指輪交換を行っているそうです。

 十八金の「かまぼこ」は、二千五百円から三千円という値段で、二人の結婚の記念の品としては、決して高いものではないわけです。

 K子さんはこう言います。

 「結婚の記念に二人で同じものをいつも身につけていたい、それだけの気持です。指輪なら邪魔にならなくて、やっぱりこれ以上のアイデアはないと思いますけど」。ところが、Oさんの言い分は、「どうも男が指輪をしてるなんて気恥ずかしい。彼女の気持は、よくわかるが、どうにもテレくさくてできない」

 つまり、感覚的に抵抗があるというわけです。

 (中略)

 「別に指輪のせいでどうこうということはないが、僕の仕事は、夜のつきあいも多いので、彼女の方で、指輪ぐらいしててくれなくちゃ心配だというので、女房がそれで安心というならそれもいいという気持でしたよ。積極的に指輪をしようというつもりはなかったが、たいして抵抗感もありませんでしたね」。“消極的指輪派”のある商社の営業部員のSさんは、こう話しています。

(1964〈昭和39〉年10月20日付朝刊11面)

【解説】

 あの日交わした結婚指輪。今も変わらず輝いていますか――。今回は11月22日の「いい夫婦の日」にちなんで、約50年前の指輪をめぐる記事をご紹介します。

 今回の記事が掲載されたのは、東海道新幹線が開通し、東京五輪が開催された1964年。街に坂本九や美空ひばりのヒット曲が流れた、高度経済成長期の真っただ中でした。男心、女心という言葉が躍る見出しに時代を感じつつ、記事をみていきましょう。

甲丸型の結婚指輪=甲丸屋提供拡大かつて「かまぼこ」と呼ばれた甲丸型の結婚指輪。根強い人気があるという=甲丸屋提供
 前文(導入部分)を◎で囲んだレイアウトは目を引きますが、読みづらいのが難点です。今回のキーワード・結婚指輪は、前文で「かまぼこと呼ばれている結婚指輪」、3段落目で「十八金の『かまぼこ』は」とされていますが、現代ではそう呼ぶ人はあまりいないので、「かまぼこ」についてもう少し説明が必要でしょう。

 「かまぼこ」は中央が膨らんだ丸みを帯びたデザインで、断面がかまぼこ形なのでこう呼ばれるようになりました。専門店などでは「甲丸」と呼びます。当時の値段は「二千五百円から三千円」。大卒男性の初任給が約2万1500円、民間企業の年間の平均給与が41万円ほどという時代なので、なるほど、そう高い買い物ではないのかもしれません。

 左側には希代の二枚目、アラン・ドロンの大きな写真が添えられています。写真説明は「去る六月来日したフランスの俳優アラン・ドロンさんは、かまぼこを二つ組合わせて小指にはめていた。当時は婚約中だった」。ファンにはたまらないこの写真、よく考えると記事のテーマとの関係が薄い気もしますが、ヤボな突っ込みはぐっとこらえることにします。

 記事中ほどの「一日四十組ものカップルが誕生している」は今なら「1日40組もが式を挙げている」などとするでしょう。「カップルが誕生」だと、今では「交際を始めた」と取られてしまいそうです。

 婚約や結婚の際、指輪を贈る習慣の起源は古代ローマにさかのぼると言われ、キリスト教徒の習慣として受け継がれてきたものです。浜本隆志著「指輪の文化史」によると11世紀に花婿と花嫁が指輪を交換した記録があり、13世紀ごろにはヨーロッパで広がっていたようです。

 日本では、上流階級で戦前から行われていたようですが、広がったのは高度経済成長期に入ってから。欧米の教会での結婚式へのあこがれや、生活が豊かになったことも後押しし、冒頭の記事にあるように神道の結婚式でも行われるようになりました。とはいえ「男が指輪をしてるなんて気恥ずかしい」という記事のような男性は、この時代には一般的だったのでしょう。

 「夫婦の関係をモノで象徴しようとするのはおかしい」「相手に縛られているようで嫌だ」など、しない理由はさまざま考えられますが、「指輪をしていたい女性」と「嫌がる男性」という構図は長らく一般的なものでした。

1998年6月26日付東京本社版朝刊37面拡大1998年の連載「どうする・あなたなら」の結婚指輪には、450件の体験談や意見が寄せられた=1998年6月26日付東京本社版朝刊37面
 指輪に対する考え方は時代と共に変わっていきます。読者の投書をもとにした98年の「どうする あなたなら」という連載記事には、「結婚指輪」の回に450件の体験談や意見が寄せられました。「結婚指輪なんて買っていない」という夫婦や、指輪を外して「夜遊び」をしていたという夫、「指輪は自分の自由を奪う犬の首輪のようにも思えた」という女性の体験談など、赤裸々な意見が掲載されました。指輪への思いの違いは、時に夫婦の間に溝をつくることもあります。

 現在では、男女の意識の差は小さくなりました。約2千人を対象にした2012年のアンケートでは、結婚指輪を「よくしている」または「たまにしている」男性は計約44%、「まったくしていない」が約56%。女性は「よくしている」「たまにしている」計約49%、「まったくしていない」が約51%でした(リクルートブライダル総研調べ)。ただ、結婚から3年以内の夫婦は8割以上が指輪をしているのに対し、20年を超えると2割強にまで減ってしまうそうです。

 ちなみに結婚5年目の筆者(29)はほぼ毎日つけています。結婚情報誌で「予習」したためか「男の指輪」への抵抗感はなく、むしろ結婚当初から喜々としてつけていた口です。もし突然、妻が指輪を外して外出するようになったら、うろたえてしまうかもしれません。友人や職場の同僚をみると、「家事や育児の邪魔になる」「仕事で衛生面に気を遣うのでできない」という人もいるものの、指輪をしている男性は多いようです。

 「どちらがいいという問題ではありませんが」と述べられているように、結局は夫婦間、当人同士の意識の問題。他人の手元も気になりますが、相手を思いやる気持ちが何より大切なのは、今も昔も変わらないはずですね。

【現代風の記事にすると…】

結婚指輪 つけていますか?
女性「二人で同じものを…」男性「照れくさくて…」

 「交換して、いっしょにはめていたい」という新婦。「いや、君がはめているのはいいが、僕はしない」という新郎。結婚指輪をめぐって近く式を挙げようという2人が論争中です。どちらがいいという問題ではありませんが、結婚指輪をめぐる男心、女心を探ってみると――

 男性の多い職場を見ると結婚指輪をはめている人は、あまりいません。「オレたちが結婚したころは指輪の話なんか問題にならなかったね。後で女房にねだられて、女房の方はしてるけどね」という人が大部分です。確かに、結婚指輪をしている男性をよく見かけるようになったのは、最近のことです。

 この秋の大安の日は、1日40組もが結婚式を挙げているという東京の明治記念館。指輪を交換する人がふえたのは、この1、2年ですが、ことしは挙式した人の約半数が交換しているといいます。明治記念館の場合、結婚式は神式ですから式次第には入っていませんが、三三九度の杯のあとに指輪交換を行うことが多いそうです。

 断面がかまぼこ形になっているため「かまぼこ」と呼ばれる結婚指輪。18金なら値段は2500~3千円で、2人の結婚の記念の品としては、決して高いものではないわけです。

 冒頭の新婦はこう言います。「結婚の記念に2人で同じものをいつも身につけていたい、それだけの気持ちです。指輪なら邪魔にならなくて、やっぱりこれ以上のアイデアはないと思いますけど」

 新郎の言い分は、「男が指輪をしてるなんて気恥ずかしい。彼女の気持ちはよくわかるが、どうにも照れくさくてできない」。つまり、感覚的に抵抗があるというわけです。

 (中略)

 ある商社の営業部員の男性は消極的指輪派。「別に指輪のせいでどうこうということはないのですが、僕の仕事は夜のつきあいも多い。彼女が指輪ぐらいしててくれなくちゃ心配だというので、それで安心するなら、という気持ちでしたよ。積極的に指輪をするつもりはなかったのですが、たいして抵抗感もありませんでしたね」

(桑田真)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください