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昔の新聞点検隊

エビ受難 今も昔も

上田 孝嗣

1971(昭和46)年7月15日付東京本社朝刊22面拡大1971(昭和46)年7月15日付東京本社朝刊22面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓等については、原則として記入を省いています

【当時の記事】

輸入エビで あこぎな脱税
50億円ごまかし

架空名義で仕入れ 業者5千を摘発 東京国税局

 好調な輸出にひき比べ、低調なわが国の輸入だが、そのなかでエビの輸入だけはこのところ、めざましい伸び。ことしは六月末まで、すでに三万五千トン、三百五、六十億円分の輸入が決った。昨年の同じ時期に比べ六割増という大幅なふえ方だ。しかし、カネになるブームのかげにはやはり、不正が隠されていた。東京国税局はこれら輸入エビを扱う商社―問屋―小売業者、すし屋、料亭のルートを洗い、十四日までに東京周辺だけでざっと五千二百の末端業者らが架空名義で仕入れを行う、などの方法で所得をごまかしていることをつきとめ、税金を追徴した。最終的な不正所得額はまだ明らかでないが、五十億円を越すともいわれている。

 食卓にのぼる輸入エビの値段は輸入価格の二―三倍ともいわれており、消費者を泣かせながらの、このあこぎなごまかしは許せないと、同国税局は今後もきびしく取締まっていくことにしている。

 通産省の輸入承認統計によると、昨年の外国産エビの輸入量は五万七千トン、約五百億円。十年前に比べ十六倍強になる。ことしは六月までの上半期だけで昨年同期の五六%増を記録、六月分は昨年に比べなんと二・八倍にもなった。(以下略)

(1971〈昭和46〉年7月15日付東京本社朝刊22面)


【解説】

 高級ホテルや有名百貨店のレストランで和牛、キャビア、ネギなどメニュー表示と異なる食材を使う「食材偽装」が相次いで発覚しました。なかでも頻繁に登場したのはエビ。輸入したブラックタイガーやバナメイエビが「車エビ」「芝エビ」と称して提供されていました。今回は42年前に、その輸入エビの脱税を摘発した記事を取り上げます。

 まずは記事を今の校閲記者の視点で点検してみましょう。

 見出しにある「あこぎな脱税」。「あこぎ」は「どこまでもむさぼること。しつこくずうずうしいこと」(日本国語大辞典)という意味です。かつて伊勢神宮(三重県)に供える魚をとるための禁漁地であった阿漕ケ浦(あこぎがうら)で、たびたび密漁していた漁師が捕らえられたという伝承に由来します。それが江戸時代に謡曲や御伽草子(おとぎぞうし)、浄瑠璃などで悪行として描かれて定着しました。やや古めかしく主観的な言葉です。今ならもっと客観的に事件を説明する見出しにします。例えば「エビ輸入取引で脱税」などとしてはどうかと提案してみます。

 

1988年1月4日付東京本社版朝刊1面拡大①お店で出すエビが外国産に置き換わりつつあることを報じた記事=1988年1月4日付東京本社版朝刊1面
 エビの輸入が自由化されたのが1961(昭和36)年。記事は10年後の盛況ぶりを背景に、業界全体で行き過ぎた利潤追求の様子を伝えています。

 冒頭の記事の後もエビの輸入は増え続け、88(昭和63)年にはお店で出てくるエビが外国産に置き換わりつつあることを報じています=記事①

 〈記事①の一部抜粋〉

 瀬戸内、九州の特産だった車エビの生けエビも、東京市場では台湾、韓国から空輸されるエビに押されだした。輸入物は値段が二、三割安く、味の点でもそう見劣りしなくなった。増産でさらに安くなれば、国産は太刀打ちできなくなる。
 年末の築地市場に、山口の料理屋の板前さん(四二)の姿があった。生けエビ二十キロ、約千匹を買いそろえ、羽田空港へ直行した。山口は瀬戸内エビの本場。「地元では数がそろわんし、輸入もんを買えば、飛行機代入れても、安くつく」。その夜の忘年会では、台湾産の「東京エビ」が瀬戸内の車エビとして天ぷらや刺し身になった。
 東京はふるさとの味も飲み込もうとしている。

(1988年1月4日付東京本社版朝刊1面)

 日本のエビの輸入量はピークの1996年には年間30万トンを超え、世界最大の輸入国でした。東南アジアの経済発展に貢献する一方で、乱獲による漁場破壊やエビ養殖場をつくるためのマングローブ林伐採など引き起こしました。

1988年11月12日付東京本社版朝刊11面拡大②昭和天皇のご病気で宴会が減り「エビにも『自粛』余波」と報じた記事=1988年11月12日付東京本社版朝刊11面
 2008年には、エビを使った巨額詐欺事件が発覚しました。「フィリピンでのエビ養殖事業に投資すれば、1年で出資額を倍にする」などと宣伝し、3万5千人から849億円を集めたとされる事件です。後にエビ養殖事業は実態がなかったことが明らかになりました。

 このようにあまり芳しくない話題にもエビが登場するのは、それだけ日本人にとってエビがなじみ深く、身近な食材だからでしょう。

 1988年暮れには、昭和天皇の容体を案じた「自粛ムード」で宴会が減り、エビの需要が落ち込んだという記事が載っています=記事②

 

エビの天ぷら拡大江戸時代から手で握って頭と尻尾が見える大きさの「手一束」が天ぷらの最上品とされる
 伊勢エビは高級食材として祝い事に欠かせませんし、車エビなどはすしや天ぷらに欠かせません。国産のいき車エビ。天然物は初夏~秋が旬ですが、養殖物はグリシン(甘みのアミノ酸)が増す11~2月がおいしい季節になります。カラッと揚がりプリッとした食感の天ぷらは絶品です。エビは高たんぱくで低脂肪のため、養殖魚のように脂肪につきやすい飼料の臭いがなく、天然と養殖の差が出にくいといいます。

 すし屋さんなどではサイマキ(5センチ前後)、マキ(10センチ前後)、クルマエビ(15センチ前後)、それ以上は大車と大きさで呼び名が変わります。

 エビフライやチリソースなど和洋中からエスニックまで幅広く使われる輸入品のブラックタイガーやバナメイは冷凍後も味が落ちず、車エビや芝エビに決して引けはとりません。そこが偽装しやすさにつながったのでしょう。


【現代風の記事にすると…】

輸入エビで悪質な脱税 50億円を過少申告か

 我が国の輸出は好調だが、輸入は低調。そのなかでエビの輸入だけはめざましい伸びを示している。今年6月末までですでに3万5千トン、350億~360億円分の輸入が決まった。前年同期比6割増という大幅な伸びだ。

 しかし、ブームの陰には不正が隠されていた。東京国税局が輸入エビを扱う商社、問屋、小売業者、すし屋、料亭のルートを洗った結果、14日までに東京周辺だけでざっと5200の業者らが所得を過少申告するなどして脱税したとして税金を追徴したことがわかった。最終的な不正所得額はまだ明らかでないが、50億円を超すとみられている。

 食卓に上る輸入エビの値段は輸入価格の2~3倍と言われる。同国税局は、今後も厳しく不正を取り締まっているとしている。

 通産省の輸入承認統計によると、昨年のエビの輸入量は5万7千トン、約500億円。10年前に比べ約16倍になる。今年6月までの上半期だけで前年同期に比べ56%増、6月分は前年の2.8倍にもなった。(以下略)

(上田孝嗣)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

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