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昔の新聞点検隊

1924〈大正13〉年4月12日付東京朝日夕刊2面拡大1924〈大正13〉年4月12日付東京朝日夕刊2面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています
【当時の記事】

鉄道では向鉢巻で この日曜の準備
お花見の人達の雑沓を想ひ 常磐線に五往復、熊谷に二往復

花の人出は此十三日がほんものであらう、鉄道当局は此間から飛鳥山や江戸川へのやりくりを、ああしやうか、かうしやうかと算段をこらしてゐたが結局飛鳥山への道上野王子間に午前九時五十五分から午後四時八分までの間に最大能力発揮の臨時列車九往復を運転し他の普通定時列車も其間では出来る限りの収容をする、常磐線金町で下車して江戸川堤へ出かける人が今年はきはだって多くなったので其便宜のために日暮里、田端、南千住と松戸間に五往復の臨時列車を出す、尚熊谷土手遊山客のためにも午前九時三十分と九時五十五分とに上野を出る臨時列車二往復を運転することとなり、当日は上野を始め関係駅では全員総出 他から応援までを得て花見客のために極力便を図るさうだ

(1924〈大正13〉年4月12日付東京朝日夕刊2面)


【解説】

 18日に「高知市で桜が開花した」と高知地方気象台が発表しました。気象協会の桜開花予想(19日発表)によると、東京・大阪では28日に開花の見込み。花見の季節は、もうすぐです。

 さて、今回ご紹介するのは90年前の記事。花見を楽しむ人たちのために、鉄道省が臨時列車を出すことを決めた、という記事です。

 今の校閲記者の視点を交えつつ、読んでいきましょう。

 花見の人出のピークと予想される4月13日に向けて、桜の名所に行く人々のための交通の便宜を図ろうと対策を練っています。出てくる名所は「飛鳥山や江戸川」、それに記事中ほどの「熊谷土手」。当時の人はこれだけで分かったかも知れませんが、今ならどこにあるのか説明を入れます。たとえば「東京府王子町(現東京都北区)の飛鳥山」「常磐線金町駅近くの江戸川堤」「埼玉県熊谷町(現熊谷市)の熊谷土手」といった具合です。

 「飛鳥山」はJR王子駅近くにある飛鳥山公園のことでしょうか。江戸時代の8代将軍徳川吉宗の時代から桜の名所として知られ、1873(明治6)年に東京の上野公園などとともに日本最初の公園に指定されました。2009年には山頂までモノレールで登れるようになりました。「熊谷土手」は熊谷市の荒川沿いの桜のことでしょう。今でも花見の季節には大勢の人でにぎわいます。一方「出かける人が今年はきはだって多くなった」という東京都葛飾区と千葉県松戸市の境にある江戸川堤は、戦争や戦後の護岸工事で桜並木がなくなってしまったそうです。名所も時代によって変わっていくのですね。

常磐線地図拡大常磐線は上野から田端で折り返すように南千住方面に向かった時代も。今は田端を通らない
 当時の記事に戻りましょう。臨時列車を走らせる常磐線のルートが「日暮里、田端、南千住と松戸間」。今の常磐線は田端を通りませんが、1905(明治38)年に日暮里―三河島を結ぶレールが敷かれるまでは、上野発の列車は田端で折り返すようにして南千住、松戸方面に向かっていました。この記事が載った24年には今と同じルートになっていましたが、臨時列車は田端経由のルートで走らせたのかもしれません。

 記事を最後まで読んだところで、見出しを点検します。「向鉢巻」は「前頭部で結んだ鉢巻き。威勢の良い姿とする」(広辞苑)。鉄道局が一生懸命頑張っている様子を表しています。左側の小さな字の見出しは「常磐線に五往復、熊谷に二往復」とありますが、これが臨時列車の増発のことだとはっきりと表したいところです。多くの人に直接影響することだからです。

 さて、鉄道当局が列車増発の準備をして備えた13日の日曜日はどうだったでしょうか=記事1

1924年4月14日付東京朝日夕刊2面拡大記事1 せっかくの日曜日は雨だったと報じる記事=1924年4月14日付東京朝日夕刊2面

けふの空を恨む お花見商人
仮装の儘
(まま)で雪崩れ込む
芝居と活動見物の群れ
あすは霽
(は)

お花見としてけふ書入れの日曜日も珍らしく天気予報があたって朝からつれない雨、上野も飛鳥山も掛茶屋や桜餅屋が
恨めしさうに空を睨(にら)んで居様と云ふ、三十万の人出を見越してその準備を整へた上野駅は勿論、市電も郊外の諸電車も聊(いささ)か張合抜けの態(後略)

 (1924〈大正13〉年4月14日付東京朝日夕刊2面=発行は13日)

 残念。雨になってしまったようです。ただ、その次の日曜日の20日は花見日和の晴天になり、紙面には今にもホームから人があふれてしまいそうな新宿駅の写真が載っています=記事2

4月21日付東京朝日夕刊1面拡大記事2 翌週の20日の日曜日は晴れて花見日和に。新宿駅のホームは大混雑=4月21日付東京朝日夕刊1面

上野公園ではオオカンザクラが満開。ソメイヨシノのつぼみもふくらんでいた=3月23日、東京都台東区拡大上野公園ではオオカンザクラが満開。ソメイヨシノのつぼみもふくらんでいた=3月23日、東京都台東区の上野恩賜公園
 1924年といえば、関東大震災(1923年9月)後の初めての春。震災の壊滅的な被害から必死に復興のために頑張っていた人たちが、例年以上に桜の開花を待ち焦がれていたのかも知れません。

 天気はいつも人間の思惑通りにはならないものですが、今年の花見シーズンは青い空の下で見られるといいですね。

 「当時の記事」の画像には今回触れられなかった「今日から小金井駅」という記事もあります。この記事については4月8日更新の回で詳しくご紹介する予定です。


【現代風の記事にすると…】

お花見へ臨時列車 13日、王子・金町・熊谷へ

 各地で桜が見頃を迎えた。東京府王子町の飛鳥山公園や常磐線金町駅近くの江戸川堤など、桜の名所は花見客でにぎわっている。人出は日曜日の13日がピークになりそうだ。

 鉄道当局は花見客に対応するため、13日に臨時列車を運行することを決めた。

 東北線では王子駅が最寄りの飛鳥山に行く人のために上野―王子間で通常ダイヤに加え9往復走らせる。また、高崎線熊谷駅近くの荒川堤に行く人のために上野―熊谷間でも2往復運行する。上野発は午前9時33分と同55分。

 常磐線では金町駅で下車して江戸川堤を訪れる人が今年は際だって多いため、日暮里―田端―松戸間で5往復増発する。

 当日は花見客で大混雑が予想されるため、上野を始め関係駅では職員を総動員した上、他の駅からも応援を得て対応するという。

(山村隆雄)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください