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昔の新聞点検隊

支払い猶予令/関東大震災(10)

1923(大正12)年9月7日付 大阪朝日朝刊5面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています拡大1923(大正12)年9月7日付 大阪朝日朝刊5面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています

【当時の記事】

水銀灯 日銀焼失の報もあったが大した事なく大金庫は勿論無事▲市中銀行も建物の被害は大きいが金庫や重要書類は多く安全である▲其処で銀行は成るべく早く開店して罹災者の便宜を計るさうだがさて斯うなると恐ろしいのは預金者の取附だ▲政府はこれに鑑みて銀行預金に十日間のモラトリウム命令を出さんとして居るのは時宜に適した施設▲但し小遣銭の引出し迄が出来んでは困るので百円以下の預金引出しは差支なく此金は必要あれば日銀から融通するテンだからマアマア大安心▲今度の震災には政府も日銀も向ふ鉢巻で財界の救済に当るのだから銀行が倒れるやうな心配はない▲故に預金者はモラトリウム、即ち支払猶予期限が経過しても不必要の預金迄引出すやうな事は見合はしたがよい▲下手に取附でもやるとそれこそ藪蛇になる▲お互に相警ましめて自重するのは何より肝要▲山本地震内閣の蔵相に井上日銀子が鰻上る▲其後釜に前の蔵相の市来さんが据わって日銀総裁となる▲頗る変テコだが此処らが地震気分だ▲井上が鰻上りならこれは鯰下りか。

(1923〈大正12〉年9月7日付 大阪朝日朝刊5面)

 
【解説】

 来るべき時にそなえ、過去にまなぶ。関東大震災シリーズの10回目は、金融の話。休業つづきの銀行を再開させた「支払い猶予令」についてです。

 震災翌日、新内閣が発足。井上準之助が大蔵大臣に起用されます。日本銀行初の生え抜き総裁から転じ、「支払い猶予令」を講じました。大まかな内容はこうです。

 東京などの被災地に住所や営業所がある債務者の支払いを、30日間延期する(冒頭の記事に「十日間」とありますが、実際には30日間)。ただし、1日100円以下の銀行預金の支払いなど、一部はのぞく。

 震災から6日後に施行。翌日には一部の銀行が、ほどなく大半の銀行が、営業を再開しました。

◇  ◇  ◇

 猶予令は効果をあげますが、あくまで非常手段。私的な金銭のやりとりに、国家の介入がつづくのは、あるべき姿ではありません。予定どおり、9月末に撤廃されます。

 ただ、心配もありました。猶予令がなくなると、預金の引き出しが増え、市中銀行が困る可能性があったのです。代わりに出したのが「日本銀行震災手形割引損失補償令」でした。

 簡単にいうと、こういうことです。市中銀行は、震災で決済できなくなった手形を抱えて困っていました。不良債権となった「震災手形」を、日銀がひきとって現金化。市中銀行に資金を供給して助けたのです。

 苦境に陥った企業や商工業者もすくわれました。震災手形の取り立てを、2年間(その後延長されて4年間)猶予。企業や業者は、支払い能力を回復する時間が与えられました。

 窮余の策は、一定の成果をあげます。ただ、落とし穴がありました。

 震災とは無関係の不良債権まで、「震災手形」に紛れ込んでしまったのです。返済の猶予で、競争力のない企業や業者が生き残ってしまいました。震災から4年後、金融恐慌につながったと言われています。

◇  ◇  ◇

 それでは、冒頭のコラムの校閲。

 「罹災者(りさいしゃ)の便宜を計る」の「計る」は「図る」に。当時はルールがありませんでしたが、今では使い分けています。「時宜に適した施設」も間違いではありませんが、今なら「措置」「施策」などとするでしょう。「マアマア大安心」は、「大安心」というわりには「マアマア」がついていてヘンですね。

 そして最後の6行。「地震気分」ということばを使い、「蔵相に井上日銀子が鰻(うなぎ)上る。前の蔵相の市来さんが日銀総裁となる。井上が鰻上りならこれは鯰(なまず)下りか」と書いています。

 「地震気分」は被災地への配慮を欠き、人事についても不必要な揶揄(やゆ)になっていないでしょうか。再考してもらいます。


【現代風の記事にすると…】

水銀灯 関東大震災でたくさんの銀行に被害がでたが、金庫や重要書類の多くは無事だった。早期の営業再開がのぞまれる▲政府が「支払い猶予令」をだす。時宜にかなった措置だ。100円以下の預金引き出しは大丈夫というから一安心▲怖いのが、取りつけ騒ぎだ。猶予令がおわっても、不必要な預金引き出しはやめよう。取りつけとなっては、元も子もない▲日本銀行総裁の井上準之助氏が大蔵相に、蔵相の市来乙彦氏が日銀総裁になった。極めて異例だが、未曽有の事態に対応した人事だろう。一日も早く、金融を安定させてほしい。

(高島靖賢)

 ※次は8月19日に更新します。12日の更新は休ませていただきます。ご了承下さい。

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください