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昔の新聞点検隊

切手印刷 民に頼る/関東大震災(11)

1923(大正12)年9月26日付 東京朝日夕刊3面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています拡大1923(大正12)年9月26日付 東京朝日夕刊3面。画像をクリックすると大きくなります。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています

【当時の記事】

郵便切手の図案変更 一時的の措置

印刷局は紙幣の原版だけを残して殆ど総ての建物諸機械類を焼いたので全部の復旧には予想外の期日を要する模様だが紙幣の発行は取敢ず応急の方法を講じて、来年一月頃から焼跡で発行を見る予定である、一方郵便切手、収入印紙の原版も焼跡から発行したがこの方は到底役に立たぬのでこれは一時様式を変へて応急の発行を為す筈で様式は既に逓信省で決定してゐる これは変態の方法ではあるが、三菱製紙工場を借りここに監督を派出し凸版印刷会社に委ねる筈だが多分大阪の製版会社で印刷するらしくここ一二箇月中に印刷に取掛る筈である なほ郵便はがきは唯今の処未決定である

(1923〈大正12〉年9月26日付 東京朝日夕刊3面)


【解説】

 関東大震災の関係紙面をふり返るシリーズ。11回目は切手の話です。

 当時、電話の普及率はまだまだ低く、もちろん今のように電子メールもありません。郵便は、今とは比べものにならないほど、重要な通信手段でした。

 未曽有の震災で、被災地の電話通信や交通が途絶。いつも以上に、郵便に頼らなければならない状況でした。ところが、逓信省(現総務省)の倉庫が焼失。全国に補充されるはずの切手が灰になります。さらに、印刷局の工場も焼け、切手がつくれなくなりました。

 「郵政百年史」(郵政省)などによると、全国の郵便局には、約3カ月分のストックしかありませんでした。全国的な切手不足を防ぐため、応急措置として考えられたのが、民間会社での印刷です。はじめのうちは大阪で製造され、震災からほぼ2カ月後、応急の「震災切手」が売り出されました。

 用意されたのは、5厘から20銭の9種類。ただ、急いでつくられたため、東京で当初売られたのは、4種類だけだったそうです。

応急の「震災切手」が発売されると報じた記事。「従来の切手のやうに切取り線も糊(のり)も附いてゐない」とある=1923年10月17日付東京朝日朝刊2面拡大応急の「震災切手」が発売されると報じた記事。「従来の切手のやうに切取り線も糊(のり)も附いてゐない」とある=1923年10月17日付東京朝日朝刊2面
 切手と切手の間には、切り離すためにあけられた、小さな穴が連なっています。震災当時、この小さな穴をあける機械は、焼けてしまった印刷局にしかありませんでした。

 「震災切手」には、小さな穴のかわりに、切り取り用の点線が印刷されました。紙質も悪く、裏面にはのりがついていなかったそうです。

 印刷局の復旧は、予想以上に早くすすみます。震災の翌24年春には、民間会社での製造は打ち切られました。25年春には使用できなくなり、残った震災切手は、回収・焼却されたそうです。

◇  ◇  ◇

 それでは、冒頭の記事の校閲。

 「収入印紙の原版も焼跡から発行したが」の「発行」は「発見」ではないでしょうか。筆者に確認を求めます。

 「これは変態の方法ではあるが」の「変態」はどうでしょう。辞書をひくと、「普通の状態と違うこと」という意味もあり、間違ってはいません。ただ「変態」には、「性欲の対象やあらわれ方が異常な〈こと/人〉」(三省堂国語辞典)のイメージが強いので、「異例」などとしてはと提案してみます。

 「多分大阪の製版会社で印刷するらしく」の「多分」と「らしく」は意味がダブり気味。どちらかでいいでしょう。「一二箇月中に印刷に取掛る」の「一二箇月中」は、今の朝日新聞では「1、2カ月中」とします。


【現代風の記事にすると…】

切手の印刷 民間会社で/印刷局焼失

 切手の印刷が一定期間、民間会社で行われることになった。関東大震災で印刷局(東京)の工場が焼失したため。工場や機械類が整備されるまでの措置という。

 逓信省によると、焼け跡から見つかった切手の原版は損傷が激しく、使用できないため、新たな図案を決定。数カ月のうちに、大阪の民間会社で印刷を始める。

 一方、紙幣の原版は使用可能。来年1月ごろから焼け跡で、発行を再開するという。

(高島靖賢)

当時の記事について

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

  • 漢字の旧字体は新字体に
  • 句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
  • 当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください