昔の新聞点検隊
(2015/01/20)
尾高教授東大生の釈放求む 袋だたき事件
東大で起った本富士署員三名に対する暴行事件につき、同署では二十一日夕首謀容疑で経済学部二年●●●●君(二二)を逮捕した。同夜七時尾高朝雄教授は野口本富士署長に学生の釈放を求め、警官の学内侵入に対する抗議を行った。
なお三署員の受けた傷は同署の調べでいずれも全治一週間、三署員が奪われた警察手帳は返されていない。
(1952〈昭和27〉年2月22日付 東京本社版朝刊3面)
【解説】
京大の構内で昨秋、学生と警官の間でトラブルがありました。京都府警の私服警官が無断で構内に立ち入り、それに気づいた学生が一時取り囲んだのです。
京大と府警には、申し合わせがあります。警官が立ち入るときには、事前通告するというもの。京大副学長は「事前通告なしに警察官が立ち入ることは、誠に遺憾」とのコメントを発表しました。
この騒ぎを聞き、ある事件を思い出した人もいるかもしれません。60年以上前の「東大ポポロ事件」。事件の関連記事をとりあげます。
◇ ◇ ◇
1952年2月20日、東大構内。学生劇団「ポポロ」の公演が行われていました。警視庁の私服警官が客席にいるのを、学生たちが発見。取り囲んでつるしあげます。奪われた警察手帳には、学生たちの尾行など監視活動が記されていたそうです。
暴力行為等処罰法違反で学生が起訴されます。憲法が保障する学問の自由や大学の自治をめぐり争われました。
下級審は無罪を言い渡します。「警官の立ち入りは、大学自治を尊重して警察権行使を制限した文部次官通達に違反する」などとしました。
しかし、上級審が判決を破棄。「自治は学問の範囲内で保障されるもので、公演は範囲外」などと判断したのです。審理は差し戻されました。
差し戻し後の一審は、有罪。「警官立ち入りは学問の自由は侵さなくても、集会の自由侵害の疑いがあるが、立ち去ろうとする警官への暴行は行き過ぎ」と断じました。
二審も被告の控訴を棄却。最高裁で元学生2人に対する執行猶予つきの有罪判決が確定しました。裁判に終止符が打たれたのは73年。事件から21年後のことでした。
◇ ◇ ◇
それでは、冒頭の記事の校閲。
逮捕された学生の氏名に「君」をつけていますが、今は「容疑者」とします。
「首謀容疑で……逮捕した」は、どうでしょう。単に「首謀」では、どんな容疑がかけられているのか、分かりません。いつ、どこで、どんなことをした疑いがあるのか。もう少し詳しく書いてもらいます。
警察署長の名前が名字だけですが、今はフルネームで書くところ。容疑者が容疑を認めているのか否認しているのかも、分かれば書いてもらいます。
最後に、「尾高教授東大」「生の釈放求む」という見出し。一つの語句が2行にわたるのは、今ではありえません。読みづらいので、改善してもらいます。
【現代風の記事にすると…】
警官暴行容疑 東大生を逮捕/袋だたき事件
東大構内で警官に暴行したとして、警視庁は21日、東大経済学部2年●●●●容疑者(22)を、□□の疑いで逮捕し、発表した。「□□」と容疑を□□しているという。
本富士署によると、●●容疑者は□日、□□した疑いがある。
東大は同署に学生の釈放を求めるとともに、警官の学内侵入に抗議した。
同署によると、警官3人はいずれも全治1週間。奪われた警察手帳は返っていないという。
※文中の「□□」は、分かるならば明記したい要素
(高島靖賢)
原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から
等の手を加えています。ご了承ください