下記は「五分刈り」(五分刈)についての国語辞典の説明です。

 《頭髪を長さ五分ほどに刈ること。また、その頭髪。》(広辞苑第六版、岩波書店)

 《五分(約一・五センチメートル)ぐらいの長さに頭髪を刈ること。また、その刈り方。》(大辞林第三版、三省堂)

 《髪の毛を、5分くらいの長さに刈りそろえること。また、そのようにした頭髪。》(大辞泉第二版、小学館)

 《頭髪を長さ五分(約一・五センチメートル)ぐらいに刈ること。また、その頭髪。》(日本国語大辞典第二版、小学館)

 《頭髪を五分ぐらいの長さに刈ること。また、その頭。》(集英社国語辞典第3版)

 ――以上5冊、いずれも同様の説明がなされています。

 「分(ぶ)」はかつて尺貫法の時代に使用されていた長さの単位で、約3.03ミリ。5分だと約1.5センチ。国語辞典がそろって「五分刈りというのは長さ1.5センチぐらいの長さに髪を切ることだ」という意味のことを書いているのは、筋の通った話です。
 しかし、実際にこのことばが理髪店で使用されるときは、ちょっと事情が違います。お客さんが「五分刈りにしてください」と頼んだとして、理容師さんが「はい分かりました」とだけ答えて髪全体を1.5センチの長さに切りそろえるようなことは、まずありません。なぜならお客さんは尺貫法で長さをイメージして「五分刈りに」と指定しているのではなく、実際には五分刈りということばを「結構短い長さの髪」ぐらいの意味合いで捉えているためです。

 では実際にお客さんから「五分刈りに」と言われたら、現場の理容師さんはどのように対処しているのでしょうか。東京都中野区で理髪店「TOKYO CUT HOUSE」を経営している阿部和義さん(68)に尋ねたところ、「五分刈りということばからイメージする長さはお客さんによってマチマチ。なので、たいていは何ミリにするのかをきちんと確認してからカットするようにしています。いったん短くしたらもう戻せませんから、まず長めに切っていって途中でお客さんに再確認することもあります。同じ長さでも、髪の多さや太さによって見た目はまったく違います。頭の形でも印象が変わってきます。季節も考えて長さやスタイルを調整したりもします。あと何よりもお客さん自身の好みを聞いて、左右や後ろの短さもアレンジしなければいけません」とのこと。「五分刈り」というだけで全体像が決まるわけではないということが、よく分かりました。

漱石の小説に頻出する「五分刈」