三が日はとうに終わり、世の中も動き出したが、どうも鏡開きの後でないと正月が終わった気がしない。筆者は長崎県生まれで、同郷の妻が作った具がたくさん入った雑煮を食べてひたすら寝正月を過ごした。うつらうつらしながら時が経過したので、果たしてどの夢が初夢なのか定かでない。小欄をご覧いただいているみなさんは、初夢はいかがだったろうか。友人に「初夢は」と尋ねると、「高額の宝くじが当たった夢を見た」というベタなものや、「御免こうむりたい上司が異動したが、もっと御勘弁いただきたい人物がそのポジションについた夢を見た」などと、なかなか笑えない内容だったりする。

 「夢」という言葉は面白いもので、上記のような質問の場合、「睡眠中に持つ幻覚」(広辞苑)を答えてくれる。しかし、「将来の夢は」と聞いた場合、数年後の就寝中に見る夢の内容を話したりはしない。この場合は「将来実現したい願い」(同)となる。

 縁あって新体操やエアロビック、ダンスといった表現系スポーツの撮影を行っており、若い世代の選手らと話す機会がある。ありがたいことだ。

 同僚と話をすると、どうしても数字の話が中心になる。健康診断の数値や年金の話だ(笑)。しかし、選手らと談笑していると、自然と将来の話になる。おじさんは遠い目をして話を聞くことになる。

「夢は東京五輪」特別強化選手に 新体操・喜田さん

 「夢は東京オリンピック出場です」。リオ五輪の余韻が残る昨秋、国立代々木競技場第一体育館で新体操の全日本選手権が行われた。2020年東京五輪での活躍が期待される喜田純鈴(すみれ)さんは、「将来の夢は」の問いに対してこう答えてくれた。

写真・図版

全日本選手権でリボンの演技を行う喜田さん。長い手足をいかした演技が注目をあびている=2016年11月27日、東京都渋谷区の国立代々木競技場第一体育館、いずれも平井一生撮影

 3年前、朝日中高生新聞(というものがあります。関心のある方は読んでみてください)の取材で、全日本ジュニア選手権大会で2連覇を果たした喜田さんから初めて話を聞いた。当時は中学2年生。その時、「きちんと基本を固めていって東京オリンピックで演技ができるように頑張ります」と話してくれた。

 現在は日本体操協会の特別強化選手に指定されている。長い手足を武器にダイナミックな演技を見せる。演技は大胆だが、話をすると繊細さが垣間見える。4年前の全日本選手権では12歳、史上最年少で2種目の種目別優勝を果たし、以降、大勢から注目されるプレッシャーとの戦いでもあった。過去の複数の大会で、「緊張して自分の演技ができませんでした」と話してくれたときもあった。昨秋の全日本選手権では表彰台を逃した。しかし、成長ぶりもうかがえる。「自分がどういうミスをするのかがわかってきました」。現在は高1。2020年、19歳で夢の舞台に臨むことになる。

選手の「一瞬のきらめき」捉える

 門外漢の筆者は、新体操を中心に記事を執筆しているフリーライターの椎名桂子さんとフォトグラファーの清水綾子さんから、会場で注目選手の基礎的なことを学んだ。お二人は体操・新体操のWEB「GYMLOVE」で継続的に情報を発信している。

 「困難を乗り越え、悔しさを糧にして、選手たちが成長していく姿を見せてくれることが最大の魅力です。そして、そこに『表現』を伴うのが、新体操が他のスポーツと違うところだと思います。新体操が勝敗とは別の物差しでの感動を与えてくれるところに私はひかれ続けています」と椎名さん。

 「一瞬のきらめきだと思っています」というのは清水さん。これまで最高の一瞬を捉えてきた。

 「わずか1分半、団体ならば2分半の間に凝縮された数々の技を創り上げるための練習は気の遠くなるような長い時間とたくさんの労力を費やしています。それでも本番で思い通りの結果が得られるとは限らず、だからこそ、その一瞬一瞬にかける選手の思いのこもった演技やきらめく瞬間に出あうと大きな感動を得られる、そんなスポーツだと思います」

代表選手から広報へ 「好きなことに関わりたい」

 新体操の取材ではここ数年、日本体操協会広報担当の藤野朱美さんと高塚美保さんのお世話になっている。特に藤野さんには新体操のイロハを教えていただいた。今回はこの競技の特徴と魅力について話を聞いた。筆者と同世代ならば、「藤野朱美選手」のほうがしっくりくるのでは。世界選手権の元日本代表選手だ。

 話の最初に出てきた言葉は「手具」だった。大辞林には、「体操、特に新体操の競技で用いる道具。縄・輪・棍棒(こんぼう)・帯状布(リボン)・ボールなど」とある。

 「手具を使うことによって、身体だけで表現できないものが表現できます」と藤野さん。「手具のなかでも、ロープとリボンは形が決まっていないもので、演技をすることによって形が変わっていきます」

 例えばリボンの長さは6メートルもある。さらにダイナミックな演技を効果的に表現できるそうだ。現役時代の藤野さんはボールの演技が得意だったという。「ボールは転がすことによって優美さを効果的に表現できます」

 同じ表現系スポーツのなかでも、筆者が長年撮影しているダンスと比べて、新体操はかなりストイックなイメージを持っていた。新体操の選手に不可欠な要素を聞いてみた。素人の筆者は、容姿や柔軟性などが念頭にあった。

 「もちろん容姿は一つの要素ですが、私はそれを最初におきたくはないですね。まず、新体操という競技が大好きであることです。加えて、自分自身とずっと向き合う競技なので、忍耐力も必要ですね」と藤野さん。ストイックなイメージは合致していたようだが、「自分自身と向き合う競技」という言葉がとても印象に残った。

 話の最後には、夢についてうかがった。「夢はいろいろあるんですが、新体操に限らず、好きなことにずっと関わっていけたらな、と思います」

現役最後の演技に拍手やまず エアロビック・大村さん

 「あの選手は糖尿病なんですよ」。もう10年以上前になるが、エアロビックの取材を始めたばかりのころ、関係者が目の前でトレーニング中の選手を示してこういった。しかし、リアル金剛力士像のような体形を見ていると、どうも信じられない。「ふーん、まだ若いのに糖尿病なのか。そんなふうに見えないけど」

 「無知は罪」という言葉は至言だと思う。もっともソクラテスのこの言葉は続きがあり、知だけでも空虚であり、英知を持たなければならないのであるが。

 その時の金剛力士、エアロビック指導者大村詠一さん(30)が昨年11月に行われた国内最高峰の大会であるジャパンカップ2016をもって現役生活にピリオドを打った。大村さんは1型糖尿病の患者である。

平井 一生(ひらい・かずお)

1966年生まれ、福岡県出身。89年入社、西部本社校閲部配属。以降、写真部、朝日学生新聞社などで勤務。東京本社地域面支援担当次長を経て、朝日新聞メディアプロダクション勤務。写真部勤務時、日本初の国産旅客機YS11の退役フライトを取材。以降も航空関係等の取材を継続している。