(5月17日付朝刊に掲載した「ことばの広場」を再録しました)

 暖かくなって旅に出たい季節になりました。鉄道の旅好きにとっては、難読や珍名の駅巡りも楽しみの一つ。群馬県富岡市の上信電鉄・南蛇井(なんじゃい)駅も人気です。駅名の由来は地区名ですが、なぜそんな名になったかには諸説あります。

 地元を流れる鏑川(かぶらがわ)畔に温井(ぬくい)という、冬は温かく夏は冷たい泉があり、そこへ蛇が集まって暑さ寒さをしのいだ。泉が南の方にあるから南蛇井――。駅員の深沢栄次さんは、そんな言い伝えを教えてくれました。

 一方、「群馬県の地名 日本歴史地名大系10」は、「『大日本史』に『那射、今ノ南蛇井村』と記されるように、『和名抄(わみょうしょう)』那射(なさ)郷に比定される。近世史料には『南才』(ナンサイ、ナンザイ)と書いたものが多い」と説明します。那射は「川が流れて広い所」を指すアイヌ語の「ナサ、ナサイ」が元で、それが「なんじゃい」に変化したと、「群馬『地理・地名・地図』の謎」を監修した前橋市参事の手島仁さんは言います。

中島 克幸(なかじま・かつゆき)

1958年、北海道生まれ。「上州をゆく」(あさを社)、「古都のドラマを訪ねて」=日本図書館協会選定図書(文芸社)、「江戸・東京のドラマを訪ねて」(同)など、旅、歴史の本を出版。「読むと、意外なドラマに出会えるかも」。