(9月27日付朝刊に掲載した「ことばの広場」を再録しました)

 新聞記事には連日のように、「殺人」や「強盗」など物騒な言葉が使われます。「暗殺」という熟語もしばしば見ます。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(ジョンナム)氏がマレーシアの空港で殺害された時にも、テレビなどで暗殺という言葉が飛び交いました。現場は夜道や暗がりではなく、午前中の混雑した空港でした。

 発生から間もない頃に入った飲食店で、テレビのニュース番組が事件を報じていました。後ろの席にいた会社員風の男性が「こういうのは暗殺なの? 『暗殺』というより『明殺』?」と連れの客に話していました。明るい時間帯で、しかも人混みでの犯行を暗殺と呼ぶことに違和感を持ったようです。

 今年、没後20年を迎えた作家藤沢周平の直木賞受賞作「暗殺の年輪」では、藩政を担う人物の殺害を、青年藩士が政敵から依頼されます。人気のない夜道で相手を襲う情景が、暗殺の場面として描かれています。