筆者が新聞の世界に入って四半世紀が過ぎた。職業柄、言葉の力を痛感する場面に数多く出会ってきた。小欄でたびたび「新聞社で編集作業に携わる我々は、言葉を紡ぎ、言葉の力で表現し、情報やメッセージを伝えるのが仕事である」と述べた。そして言葉を取り巻くさまざまなものを取り上げてきた。

 さて、今回紹介するのは、「仕事で使う言葉に、多くの命が託されている」と言っていい状況で働く人たちである。

 多くの方は「航空管制官」という言葉は聞いたことがあるだろう。しかし、「どんな仕事をしているか」と問われたら、答えられるだろうか。

 航空機に乗ると、滑走路手前まで来てしばらく待機することがある。たまに、「着陸機がございます。管制塔からの離陸許可を待っております」という客室乗務員のアナウンスがある。この時くらいしか「管制」という言葉を意識しないのではないだろうか。

研修を終え、いきなり成田へ

 RUNWAY 34R CLEARED TO LAND WIND THREE TWO ZERO AT SEVEN(滑走路34ライトへの着陸支障ありません。風向きは320度から風速7ノットです)

 航空管制官の山田哲也さん(30)が、この言葉を発すると、目前に垂直尾翼に鶴丸の見慣れた航空機が現れ、滑走路に着陸した。

 ここは成田空港の管制塔。地上87メートルの360度ガラス張りの部屋。取材に訪れた時間、山田さんはB滑走路の管制を担当していた。成田空港の航空機離着陸数は1日に約700回。3パターンのシフトを組み、約70人の管制官が勤務している。

 航空管制官は国土交通省の国家公務員。航空機が安全に空を飛べるように、パイロットに飛行高度や経路等を指示し、運航に必要な気象などの情報を伝える仕事だ。

 民間旅客機の場合、駐機場から航空機が動き出し、離陸し、巡航し、目的地の空港に着陸し、再び駐機場に停止するまで、パイロットはそれぞれのエリアを担当する航空管制官の指示を受けている。今回筆者が見せてもらったのが、「飛行場管制業務」。管制塔の上部にある部屋で、空港周辺の管制を行う。

 山田さんは、採用試験合格後、航空保安大学校での基礎研修を3年前に終え、成田に配属された。初配属は地方の交通量の少ない空港と勝手に思い込んでいた筆者にとっては意外だった。配属といってもこの時点ではまだ訓練生である。成田が訓練の場とは。考えただけで胃が痛くなった。

 「配属されてから1年半の間、訓練です。厳しい訓練でした。長かったですね。送信ボタンを持つ手が汗でべっとりでした」

写真・図版

送受信のためのヘッドセットは個別に貸与される。最初のころは、送信ボタンを押す指に思わず力が入ったという。だれのものかわかりやすいように目印のアクセサリーをつける。黄色の動物のようなものは研修中に先輩からもらったという某お菓子メーカーのキャラクター。「NARITA TOWER」のワッペンは、研修終了後に渡された。「BEST PLANNED BEST SERVED」と書かれている

命を背負う重さを痛感

 訓練が終わっても試練が待つ。もはや研修ではないのだ。後方で指導してくれた先輩は、いない。

 「背中に誰もいないんです。ボタンを押す重さ、命を背負う重さを痛感しました」

 山田さんの傍らで仕事を見ていると、航空機が頻繁に着陸してくる。当たり前だが、飛んでいる航空機は急に止まれない。山田さんは瞬時に判断し、的確な指示を出す。

 「一般には、特別な仕事をしている人たちと思われているようですが、そうでもないんですよ」と山田さん。

 「この人と一緒に仕事したいな、と思わせる人。チームのために頑張れる人。そんな仲間たちです。どの組織でも同じだと思います」

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山田さんの視線の先にはこのような光景が広がる。第2ターミナルの向こうにB滑走路が左手側(北側)に向かって延びている