例年、大型連休中の5月3、4日に開催される「佐世保-島原ウルトラウォークラリー」という大会に参加している。5月3日正午に長崎県佐世保市をスタートし、規定時間内に途中4カ所のチェックポイントを通過、翌日正午までの制限24時間以内に105キロ先の同県島原市の島原城まで歩き通すものだ。トップクラスは13時間程度でゴールするが、鈍足の筆者は毎年24時間ギリギリで、へろへろになってゴールにたどりつく。

 この大会の前身となった大会も含めて今年で11回も参加しているが、「苦行」というしかない。毎年、ゴールイン直後は「もうやめよう」と思う。しかし、それでもエントリーを続け、現在に至っている。参加理由のひとつにゴールが筆者の生まれ故郷というのがある。終盤の最終5キロは幼少時から慣れ親しんだ道で、ここを歩くために参加していると言ってもいいだろう。

心に残る「踏切のある風景」

 そしてもう一つの理由がある。スタートからちょうど100キロ地点。ここに生家最寄りの「鼻ノ崎」というバス停があるが、そのそばに島原鉄道という私鉄の踏切がある。この踏切が大好きだった。子どものころ、この踏切には頻繁に列車を見に行った。警報機が鳴るとしばらくして列車がやってくる。1時間に1本くらいしか来ないので、貴重なものだった。筆者の鉄道好きの素地を作った場所と言ってもいいだろう。踏切の向こうには静かな有明海が広がる。列車が来るのを待っている間は海を眺めていた。踏切を含め、ここから見る風景が大好きだった。

写真・図版

筆者の「原風景」となる生家そばの踏切。子どものころ、警報機がなるとワクワクして列車を待った。後方には波静かな有明海が広がる=長崎県島原市有明町

 「原風景」という言葉がある。広辞苑(第7版)では、「心象風景のなかで、原体験を想起させるイメージ」とある。この言葉も難しい。説明文を読んでもしっくりこない。頻繁に見聞きする言葉ではあるが、説明せよ、と言われれば窮するものである。ざっくり言って(言っていいとすれば)、「自分の思考・価値観を形成するに至った心の中のイメージ」と言えようか。あくまでもイメージであり、厳密には実際の風景のことではない。しかし、あちこち旅行に行き、さまざまな風景を眺めても、知らず知らずのうちに、幼少時からなじんできた、踏切の向こうに海が広がる風景と比べている自分に気づくことがある。

 筆者にとって、踏切は劇場の舞台であった。ベルが鳴ると待ち望んでいた主役が現れ、そして去っていく。そして、いつのまにか、主役よりも、舞台である踏切そのものに関心が移っていた。

きっかけは「幼少時の墓参」

 先日、筆者同様、やはり踏切が「原風景」となったのではないかと思われる人に出会った。旅行会社クラブツーリズム株式会社の大塚雅士さん(49)。「貨物線を走行するお座敷列車の旅」を考案した人である。この企画は、日本の優れた鉄道旅行の企画商品を表彰する「鉄旅 OF THE YEAR 2017」のグランプリに輝いた。

 なぜ、貨物線にこだわったのか。お話をうかがった。

 「夢を持ったきっかけは8歳か9歳ごろです。電車が大好きでよく親に近所の電車車庫などに連れて行ってもらいました。また、実家のある東京・北千住からお墓のある八柱霊園によく行っていましたが、水戸街道を通るときに、線路を横切るのです。ここの踏切が閉まっているのを見たことがないので、不思議に思っていました。長じて、それが新金貨物線という貨物専用線だとわかり、いつかそこに旅客列車を走らせてみたいと思いました。私自身、一番通ってみたかった線路です。小さいころは苦痛だったお墓参りをしていたおかげで、ご先祖様より恩恵を受けました」と大塚さん。

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 商品化するまでの苦労も聞いた。受賞した2017年のツアーは池袋発品川行き。遠方や観光地に行くわけでもなく、沿線に名勝があるわけでもない。通常約20分の距離を、貨物専用線にも入りながら7時間かけて巡る旅である。通常人の思考のレベルを超えている。企画のプレゼンを行っても、なかなか理解してもらえない。大塚さんのご苦労は察するに余りある。