(9月5日付朝刊に掲載した「ことばの広場」を再録しました)

 銃を使った痛ましい事件が起きた場合に、事件を見聞きした人が「銃声を聞いた」と報道されることがあります。

 聞こえたのは銃を発砲する音です。「発砲音」とされることもありますが、紙面では「銃声」のほうが多く使用されています。一般に「音(おと)」は無生物の発するもの、「声(こえ)」は生物が発声器官を使って発生させているものを表すと使い分けています。理屈では「銃音」と呼ぶことになりそうですが、一般的ではありません。

 明治大学の田中牧郎教授(日本語学)によると「銃声」という語は明治時代に英国の小説の翻訳で使われ始めたそうです。翻訳の際に生み出された言葉だというのは意外でした。

 同様に生物でない「声」で思い起こされるのは、「平家物語」の冒頭の「祇園精舎の鐘の声」です。日本国語大辞典の「おと」の項の「語誌」には、「古くは『こえ』は生物の声のほか、琴、琵琶、笛など弦・管楽器、また、鼓、鐘、鈴などの打楽器の音響にも使われた」とあります。