外国の演劇やミュージカルを見たことがありますか? 英語、フランス語、そのほかの言語でも、日本で上演される多くの公演で、舞台脇などに日本語字幕がつきます。タイミングよく流れる字幕のおかげで言葉の壁を感じることなく、ユーモアに笑ったり、感情移入したりすることができます。そんな字幕が、聴覚に障害がある人の鑑賞の手助けにもなっているそうです。気軽に芸術が楽しめる技術とは、どんなものなのでしょうか?

■聴覚障害者向けにサービス


 2月、東京・池袋の東京芸術劇場で野田秀樹さん主宰のNODA・MAPによる「逆鱗」が上演されました。松たか子さん、瑛太さん、井上真央さん、阿部サダヲさんら人気俳優が多く出演することもあり、前売り券は完売した人気の演目です。20日に聴覚に障害がある人向けにポータブル字幕機の貸し出しがありました。これを借りれば手元の機械の画面に、劇の進行に合わせたせりふや音の説明が流れて鑑賞の手助けをします。この日は10人が利用しました。

 この字幕機は歌舞伎などの古典芸能の鑑賞のポイントなど、同時解説を音声で流す「イヤホンガイド」のサービスを手がける株式会社イヤホンガイド(東京都)が開発しました。同社は1975年に歌舞伎などの公演で初心者向けに同時中継の音声ガイドを始めました。その後、電光掲示板をつかった文字解説を手がけるようになり、外国人向けに英語の解説を流したり、外国語の演目に日本語字幕をつけたりする事業などを行っています。外国語の演目の場合は、舞台の上や横などに大きな電光掲示板を設置して、観客全体にむけて字幕を映すことがほとんどですが、2009年からは手元で利用できるポータブル字幕機を使って聴覚障害者を想定したサービスを始めました。東京芸術劇場は、主催共催の日本語演劇の公演の多くで実施しています。

■試行錯誤を繰り返して

 「逆鱗」は何度も上演されたことのある古典の演目と違って完全な新作です。どうやって準備をすすめるのでしょうか。同社制作部主任の岡田哲さんによると、事前に主催者から提供された台本をせりふごとに細かく分けて入力し、場面ごとに映す文章の量を調節します。登場人物ごとに表示する色を変えて、効果音や音楽の説明も加えます。せりふの量がおおくなると、1回に映る文字が増えます。一度に読み切れない可能性も高くなりますが、そうかといって短い言葉で何度も切り替えると、今度は使用者が舞台の上の出演者の動きを見逃してしまう可能性もあり、毎回試行錯誤を繰り返すそうです。

加藤 順子(かとう・じゅんこ)

2003年に入社し、広島総局など西日本各地を転々としていたはずなのに、ふと気付いたら校閲センターにいた、ひよっこ校閲記者。守備範囲は2次元から3次元まで限りなく広く浅い。アイドルから歌舞伎まで年40本の公演をみる舞台ファン。