熊

 いやー、実にいい話だったなあ。偉い先生が話すことは、奥が深いや。

ご隠居

 あたしゃ、気に入らないね。

熊

 え、何でだい。親は、子どもより少し高いとこで見てなくちゃいけない。子どもと同じレベルで見てちゃ駄目だって。この話の何が気に入らないんだい。

ご隠居

 いい話だよ、確かに。でも、その前段で「親」って字の成り立ちを使って説明したろ。

熊

 ああ、「親っていう字は、木の上に立って見ると書く」って言ってたことかい。

ご隠居

 そう、それ。気にくわないね。猿の親じゃあるまいしさ。

熊

 随分な言いようだね。

写真・図版

親 金文

ご隠居

 親って字は「辛」と「木」と「見」でできてるとか「写真・図版」と「見」でできてるって説があるんだ。

熊

 へえ、そうなのかい。

ご隠居

 辛は取っ手の付いた大きな針のことでね。新しい位牌(いはい)を作る木を選ぶときに、この針を使ったらしいんだ。親は、その位牌を拝む姿だっていうんだな。

前田 安正(まえだ・やすまさ)

前東京本社編成局校閲センター長、現在は朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長。1955年、福岡県生まれ。早稲田大学卒業、82年入社。2005年1月、東アジアの漢字事情をリポートした「アジアズームイン漢字圏」、07年1月、IT時代の漢字をテーマにした「漢字とつきあう」などを担当。13~16年、夕刊に「漢話字典」を連載。