見出しで混同することも

 「がんの5年生存率向上」(7月22日付朝刊)、「がん発症率に地域差」(6月30日付朝刊)など、国立研究開発法人「国立がん研究センター」の研究に関する記事が新聞に掲載されることがよくあります。同センターを見出しなどで略すときは「国立がんセンター」または「がんセンター」と書くことにしています。新聞の見出しは短い言葉を使ったほうが多くの内容を盛り込めるため、まれに「がん研」と略そうとする編集者もいます。それに対して校閲センターでは、「がん研」と略さないようにと指摘しています。「国立がん研究センター」とはまったく別組織の公益財団法人「がん研究会」があり、その略称が「がん研」であるためです。「がん研」は商標登録もなされています。

 かつては、それぞれ「国立がんセンター」「癌研究会」という名称だったため、取り違えはめったにありませんでしたが、2010年に前者が「国立がん研究センター」、11年には後者が「がん研究会」となったことで、ともに「がん研究」の文字が含まれる形となり、混同が起きやすくなりました。

 一方、紙面には地方にある「県立がんセンター」もよく登場します。単に「がんセンター」と記すと混同しかねない場合は、「国立」「県立」ときちんと付けるよう促しています。

「佳境」の意味は

 校閲作業の現場で「佳境に入る」という言葉が話題に上ることがしばしばあります。「佳境」の意味については多くの国語辞典で「おもしろいところ」「興味深いところ」などとしており、広辞苑(第6版)は「佳境に入る」の形で「最も興味深い部分になる」と説明しています。しかし、単なる山場の意で「佳境」を用いている例を時々見かけます。

 待機児童が多く、保育施設を増やすなどの対策が進む東京では、保育士の争奪戦が熱を帯びています。都心の各施設が保育士集めに苦心していることをリポートした記事が先日掲載されたのですが、その中に当初「今春の採用が佳境に入った昨年11月」という表現がありました。その時期の採用状況の深刻さを示した箇所でしたが、当事者にとっては「おもしろい」「興味深い」どころではないので、記事の意図にマッチした表現にするよう提案したところ、「今春の採用が本格化した~」となりました。

 自分の仕事が忙しくなってきたことを「佳境に入ってきた」という人もいますが、もちろん「佳境」は繁忙期の意味ではなく、冗談交じりの表現でしょう。たいていの仕事は「おもしろい、興味深い」と言っても怒られませんが、さすがに現実の殺人事件の捜査や、内戦の和平交渉などの山場を「佳境」と言ってしまうと、不謹慎のそしりをまぬがれません。