前回、2010年に新しく常用漢字になった196字が、昭和30年代の朝日新聞が活字を常備していた4000字に入っていたかどうかを調べてみました。今回はそのおまけとして、現行の「人名用漢字」が朝日の4000字にあったかどうかを見てみたいと思います。
 人名用漢字とは、常用漢字(かつては当用漢字)以外に生まれた子どもの名付けに使える漢字のことで、法務省令の戸籍法施行規則で定められています。1951年に92字が定められたのを皮切りに、時代を追って数が増えていきました。近年では、2004年の大量追加が話題になったのを覚えている方も多いことでしょう。

 2010年の常用漢字表改定に伴う改正などを経て、現在人名用漢字は計862字。戸籍法施行規則・別表第2の「表1」(650字)に常用漢字以外の字種、「表2」(212字)には常用漢字の異体が収められています。ここでは常用漢字以外の字種、すなわち「表1」の字を比較の材料とします。
 戦後の朝日新聞の活字については、今回も社内資料「統一基準漢字明朝書体帳」第3版(1960年)を用います。朝日新聞の4本社共通で活字を整備すべき4000字を選定し、その字体基準を示した資料です。
 
 では、人名用漢字「表1」の字と、朝日の書体帳の掲げる字を上下に並べてみます。字数が多いので、一覧を四つに分けました。
 漢字の並び順や、同一字種であることを表す「-」は、戸籍法施行規則に示された通りです(ただし組み方向は縦から横に変えています)。
 当時の朝日新聞は、当用漢字以外の字(表外漢字)にも当用漢字の略し方を及ぼした「朝日字体」を使っていました。そのため、現行の人名用漢字の字体とだいぶ形が異なるものもありますが、個々の字体についてはこれまでの回で述べてきましたので適宜ご参照ください。
 以下、主に、書体帳の字の欄が空白であるものについて説明を加えていきます。


【人名用漢字と書体帳 その1】
写真・図版

 にんべんに属する人名用漢字で、書体帳に無かったのは3字。いずれも、書体帳のころは人名用漢字ではなかったものです。「伶」「侑」は1981年、「俐」は2004年に人名用漢字に入りました。

 「凜-凛」のうち書体帳には「凛」が掲げられていました。当時は活字としては「凛」が優勢であったためで、略字主義とは関係ありません。しかし1990年に「凜」が人名用漢字になったのを受け、この「右下が禾」の字体に変更しました。その後2004年に今度は「凛」が人名用漢字に入りましたが、紙面では引き続き「凜」を標準と扱っています。

 「勁」が人名用漢字になったのは1990年。「つよし」などの読みでよく見かけるように感じますが、名付けに使えるようになったのは意外と最近です。人名以外では「勁草」(けいそう=節操・意志のかたいことのたとえ)などの漢語がありますが、新聞記事で使うことはあまり無かったために書体帳には入らなかったのでしょう。

 「尭-堯」は新字体と旧字体の関係で、書体帳では「曉→暁」などの略し方を適用した「尭」を採用していました。1981年には人名用漢字にこの「尭」が入り、一般にも標準の字体と扱われるようになりました。その後、2004年に旧字体(康熙字典体)の「堯」も人名用漢字に追加されました。

 「娃」の書体帳の字が細くて扁平なのは、4本社共通で常備する4000字ではなく、西部本社の「ローカル字」として書体帳に記載されていたためです(鹿児島県頴娃町のためでしょう)。人名用漢字には2004年に入りました。

 「崚」は1990年に人名用漢字になりましたが、もともと一般になじみのある字ではなく、最新の「広辞苑」や「大辞林」にもこの字を含む見出し語は見当たりません。しかし今では、1990年以降に生まれた若者の名前をしばしば紙面で見かけるようになりました。今年の夏の高校野球地方大会でも、この字を含む名前の選手があちこちの県に登場しています。

 「嵩」も先の「娃」と同様、書体帳の字が細くて扁平ですが、これも4本社共通で常備する4000字ではなく、中部(名古屋本社)のローカル字でした(岐阜県御嵩町など)。人名用漢字入りは1981年です。

 「巌-巖」は、新字体の「巌」が1951年の最初の人名用漢字に入り、書体帳もそれにならっていました。旧字体(康熙字典体)の「巖」は当初は名付けに使えませんでしたが、1962年に民事局長回答によって受理されるようになり、1981年の改正で「当分の間、用いることができる」許容字体と位置づけられました。その後、2004年の改正で「当分の間」が外れ、「巌」と同格の人名用漢字として扱われるようになっています。

 「惺」と「摑」はいずれも2004年に人名用漢字に入った字。「惺」は人名で「さとし」「さとる」などと読まれますが、人名以外の言葉で登場することはほとんどありません。逆に、「摑」はほとんどが「つかむ、つかまる」で、人名に使われる例は現在もかなり少ないと思われます。

比留間 直和(ひるま・なおかず)

1969年生まれ。学生時代は中国文学を専攻。1993年に校閲記者として入社し、主に用字用語を担当。自社の表外漢字字体変更(2007年1月)にあたったほか、社外ではJIS漢字の策定・改正にも関わる。