1年ほど前、ひとつの匿名ブログをどう書くべきか、校閲センター内のごく一部で議論がありました。あの「保育園落ちた日本死ね!!!」です。

 この「どう書くべきか」というのは、どのように話題にするかということではなく、表記に関する細かい話。ブログの表題の末尾の感嘆符を、単独の「!」を3字並べて書くか、それとも「!!!」を全角1字分に詰め込んだ合成字にするか、ということでした。

 このブログが話題になり始めたころの朝日新聞の紙面では、単独の「!」を3字並べた書き方でしたが、やがて「!!!」の合成字が主流になりました。下の画像のうち、右側が合成字を使った例です。

  写真・図版

 もともとのブログでは、末尾の「!!!」は半角ではなく全角文字を三つ横に並べた形になっています。新聞でも、合成字ではなく全角3文字で表記したほうが引用としてはより厳密かもしれませんが、「!」を縦書き文中で上下に並べるのはあまりスマートとはいえません。限られた紙幅を有効に使いたいということもあります。結果として、2016年の紙面における「!!!」の合成字の使用回数は、前年の倍以上にのぼりました。

 この「!!!」の合成字をめぐっては、個人的にもちょっとした思い入れがあります。

■システム更新後も搭載

 朝日新聞では2000年代半ばに新聞製作システムを全面的に更新しましたが、このとき、システムに常備する文字も再検討しました。

 旧システムに搭載されていた記号類には、かつて特定のコーナーで使うために搭載したものの使わなくなってしまった文字など、不要と思われるものが少なからずありました。使わない文字を新しいシステムに引き継いでも、保守管理の手間が増えるだけで、よいことはありません。当時、筆者も参加して取捨選択の案づくりを行いました。

 旧システムには、「!」や「?」の仲間が多数搭載されていました。

  写真・図版

 「!」や「?」を組み合わせた合成字をこれだけ用意している理由の一つは、新聞が縦書きを基本としていることです。横書きの場合は「!」や「?」を詰めて並べれば済みますが、縦書きではそうはいきません。

 パソコンのワープロソフトやDTPソフトでは、縦書きの途中で複数の文字を横に並べる「縦中横(たてちゅうよこ)」と呼ばれる機能がありますが、レイアウトの調整に時間をかける余裕のない新聞製作では、通常、あらかじめ1文字のサイズに合成したものを使っています。文字のデザインがもともと最適化されているので、臨時に組み合わせるよりも見栄えがいい、というメリットもあります。

 検討の結果、上記のうち疑問符三つの「???」と、「?」「??」の斜体の計3字は、必要性が極めて低いため、更新後のシステムには搭載しないことにしました。残すことにした文字のうち、「!!」「??」「?!」「!?」はJIS第3・第4水準に採録されており、「!!」「!?」の斜体はテレビ・ラジオの番組表で使っています。

 感嘆符三つが合わさった「!!!」も、「???」と同じように搭載をやめるかどうか考えましたが、軟らかめのコーナーの読者投稿やイベント名などの表記で必要な場合があると判断し、引き続き搭載することにしました。

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 新しいシステムへの切り替えの後、「!!!」の合成字は、やはりイベントや作品のタイトル、投稿文などで時々使われましたが、当初はそれほど目立つ用例はありませんでした。

 しかし間もなく、「やっぱり入れておいてよかった」と強く感じる瞬間がやってきました。2007年3月28日付の朝刊。1面には「植木等さん死去」のニュースが載り、社会面にもそのサイド記事が組み込まれました。このときの社会面の記事に、亡くなる前の植木さんについて
 《6月公開予定の「舞妓Haaaan!!!」が最後の映画。その仕事も「やっぱ現場はいいもんだね。みんなが真剣で輝いてる」と話していた。》
 とありました。

 「舞妓Haaaan!!!」(まいこはーん)は、宮藤官九郎さん脚本、阿部サダヲさん主演のコメディー映画。このタイトルが朝日の紙面に縦書きで登場したのは、このときが初めてでした。

比留間 直和(ひるま・なおかず)

1969年生まれ。学生時代は中国文学を専攻。1993年に校閲記者として入社し、主に用字用語を担当。自社の表外漢字字体変更(2007年1月)にあたったほか、社外ではJIS漢字の策定・改正にも関わる。現在、朝日新聞メディアプロダクション用語担当デスク。