【解説】

 8月26日に「江戸っ子の心意気! 大使の愛犬を救助」という記事を公開しました。今回はその続きです。

 1934(昭和9)年1月19日、駐日アメリカ大使のジョセフ・クラーク・グルーさんの愛犬・サンボ(Sambo)が厳寒のお堀に落ちてしまったのを通りすがりの若者2人が協力して助けました。自転車の青年とは握手して言葉を交わすことができたのですが、円タクの運転手の若者はすぐに車で去ってしまいました。「もう一度会って、お礼を言いたい」と大使が言っている、というのが前回の記事でした。

 救出劇の5日後、1月24日付朝刊に「佳話の主人公は評判の孝行息子『犬だって人を助けるよ』」という記事が載っています。サンボの命の恩人が見つかったのです。同僚も「非常な孝行者だ」とほめる23歳のタクシー運転手。記者が訪ねると「犬だって人間を助けるのですから……」と全く誇る様子もない謙虚な若者でした。

 さて、大使夫妻はその恩人に会おうとしますが、最初に来たのは何と偽物。大使の日記「滞日十年」(筑摩書房、石川欣一訳)によると、25日に「自分が救い主」とタクシーを運転して大使館に現れた男は、大使館の前で別の男に襲撃されました。襲ったのはその男にタクシーを盗まれた運転手。男はお礼のプレゼントを目当てにタクシーの運転手を装ったようです。

 そんなことがあった後にやっと対面できたのが、冒頭の記事。まずは点検しながら読んでみましょう。

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

・漢字の旧字体は新字体に
・句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
・当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください

山村 隆雄(やまむら・たかお)

1968年生まれ、千葉県出身。91年入社、名古屋本社校閲部。以来東京、福岡、大阪と異動しつつ校閲の仕事を続ける。2008年から東京本社校閲センター次長。高校、大学で柔道部。プライベートでは犬を猫かわいがりしている。