【解説】


 高校野球の夏がやってきました。阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で8月7日から始まる第98回全国高校野球選手権大会。いま全国でその代表をかけた熱戦が繰り広げられています。

 その前身は、1915(大正4)年に始まった全国中等学校優勝野球大会(第1回大会については2015年7月22日更新の「高校野球100年 第1回全国大会開催のお知らせ」をご覧下さい)。第1回と第2回は豊中グラウンド(大阪府豊中市)で開催されました。第3回からは記事に登場する鳴尾球場(兵庫県西宮市)に移ります。

 今回は鳴尾球場での第8回大会(1922年、参加229校)の記事を取り上げます。冒頭の記事は大会2日目の様子を伝えています。現代の校閲記者の視点で点検してみます。

 まず、見出しの「決勝戦として」は強豪校同士の対決であることを強調しているのですが、まだ1回戦ですので「大会屈指の好カード」などでしょうか。その左隣の「球狂」は熱心な野球ファンを指していますが、少し分かりにくい気がします。今なら「観衆」「スタンド」などとするでしょうか。それと記事中の「九十九度五分という暑さ」は気温をカ氏で表記しています。今はセ氏で書くので、37.5度になります。また記事中ほどの「蟻(あり)の這(は)ひ居る隙さへなく」は、分かりやすいたとえではありますが、慣用句としては「蟻の這い出る隙もない」。「警戒が非常にきびしく、はいりこんだりのがれ出たりする余地がない」ことを表します。混雑している状況を表すなら「立錐(りっすい)の余地もなく」「身動き出来ないほどぎゅうぎゅう詰めで」などとしたいところです。

 指摘はこのぐらいにして記事に戻りましょう。記事は第1試合と第2試合の球場の熱気を伝えています。記事の上に第1日の入場式の写真も載っています。入場式は1917(大正6)年に鳴尾球場に移った年から始まりました。オリンピックや同年にあった極東選手権競技大会の開会式を参考にしたそうです。

 記事は、まず第1試合の南満州工業専門学校と立命館中の対戦を伝えています。南満工は中国東北部の大連にあった学校です。前年から満州大会が新設されたために出場していました。

 立命館の勝利とありますが結果がありません。調べてみると「立命館中6―3南満工」でした。今では必須とも言える試合結果ですが、昔の試合では勝敗だけの記載がよく見かけられます。

 この日の試合は正午からの和歌山中(現和歌山県立桐蔭中学校・高校)と早稲田実業の対戦カードに注目が集まっています。和歌山中は前年の第7回大会の優勝校。両校への声援も徐々に熱が入って来ています。

 この試合も本文中に勝敗がなく、見出しにだけ「早実敗る」とあります。結果は「和歌山中8-0早稲田実」でした。見出しにしかないのは、試合終了が夕刊の締め切り間際で、記事を入れる時間がなかったからかも知れません。

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

・漢字の旧字体は新字体に
・句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
・当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください

上田 孝嗣(うえだ・たかつぐ)

1966年生まれ、福岡県出身。91年入社、東京本社校閲部、仙台、函館支局、東京本社地域面編集などを経て2012年から校閲センター。食と酒の美味探求とスキューバダイビング、旅好きなアラフィフ。共著に「パイプ大全」。