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孤族の国

子の送迎 救う手 「孤族の国」家族代行―3【全文】

2011年1月28日12時0分

写真親の代わりに保育園に迎えに来た「ぽっかぽか」のスタッフ=大阪市東淀川区、伊藤菜々子撮影

 金曜日の午後8時過ぎ。ランドセルを背負った小学4年と保育園児のきょうだいが家路を急ぐ。自宅マンションに通じる裏通りに、もう人影はない。

 大阪市東淀川区。2人は放課後をNPO法人「ぽっかぽか」の部屋で過ごした。家まで送ってきたのが、保育サポーターの森元多加子さん。薄暗い階段を一緒にあがる。子どもがランドセルに鎖でつないだカギを取り出し、玄関を開け、中に入るのを見届ける。母親は仕事でまだ戻っていない。

 「バイバイ」「おやすみ」

 カチャ。2人が家の中から鍵をかけた音を確かめ、森元さんはマンションを後にした。

 子育てを支える「ぽっかぽか」ができたのは6年前。保育園や習い事教室へ、親に代わって子どもを送り迎えする。他にも小学生を放課後に預かったり、育児サークルを開いたり。拠点はマンション1階に設けた「ハウス」。送迎の利用料は30分500円だ。

 会社員の山白尚子さん(32)は月1、2回、子どもの保育園への迎えで利用している。夫は通勤が片道1時間半。職場の責任者で夜遅くまで帰れない。双方の実家も遠すぎて頼めない。母親仲間も忙しい。

 大事な予定のある日、長女が保育園で熱を出したことがあった。「なんでこんな日に」。救いの神を求める思いで、インターネットで見つけていたぽっかぽかに電話をしたら迎えに行ってくれた。

 「ぽっかぽかは心の支え。なかったら今の仕事は続けられず、私も壊れてしまいそう」

     □

 立ち上げたのは、近くに住む助産師の渡辺和香(やすこ)さん(48)。15年前に助産院を開業、母親たちに接するうち、地域から孤立した「孤育て」に悩む姿を目の当たりにした。

 生後3カ月の母子訪問。マンションの一室で、「別の階に赤ちゃんがいるみたい。どの部屋か知りませんか?」と訴えるように尋ねる母親がいた。話し相手に飢えている様子だった。

 母親たちに「心配事なら、いつでも電話して」と言うと、かかってくるのは近所に聞けばわかるようなことばかり。「いい小児科を教えて」「うちの子は厚着か」。たいてい、夜遅くにかかってきた。

 まずは顔が見える関係をつくろうと、子連れの母親たちが月1回集まれる場を開いた。

 「急に熱を出した子を迎えに行ってくれる人がいたら」「自分が病気の時に買い物を代わりにしてくれる人がいたら」。母親たちの「あったらいいのに」を重ねたら、今のかたちになっていった。

■タクシー業界は商機

 こうした需要に、タクシー業界も商機を見いだしている。

 平日の午後4時過ぎ。京都大学近くの路地に止まったタクシーから小学1年の男の子(7)が降りてきた。放課後、学童保育で預かってもらっていた施設から約20分。運転手さん(60)に手を引かれ、奥にある英会話教室に入っていく。都タクシーの「子育てタクシー」だ。

 母親(43)は訪問看護師。帰宅は毎晩6時をまわる。会社員の夫が帰宅するのは夜中近く。家事、育児、仕事をこなす毎日の生活に余裕はない。

 ネットで、子ども1人で乗車できる子育てタクシーを知ったとき、「こんな便利なサービスがあるなんて」とうれしくなった。運賃は通常と同じ。この子の場合、月4回で6千円ほどかかる。

 高松市のNPO法人「わははネット」が2004年に地元タクシー会社に依頼し、運転手5人から始まったサービス。全国子育てタクシー協会も設立され、今では97社が加盟、約1100人の運転手が登録している。

 わははネット理事長の中橋恵美子さん(42)は、「共働きの増加や核家族化、地域社会の崩壊で母親たちは『孤育て』に直面している。子育てタクシーがこれだけ広がったのは必要とされる状況があるから。ぜいたく品ではなく必需品です」。

     □

 ぽっかぽかにとって意外なことがあった。活動を支える保育サポーターに約100人もの人が名乗りを上げてくれたのだ。

 活動で受け取る謝礼は内容や時間帯で異なるが、送迎なら30分350円。お金のためではない。「何か役に立ちたい」「外とつながりたい」といった主婦や学生がほとんどだ。

 主婦の木村美和さん(29)は「いろんな人に出会いたい」と思って加わった。福岡から夫の転勤で引っ越してきたばかり。誰も知らない状況から抜けだしたかった。1歳7カ月の長男を連れて週2〜3回、親子が集まる広場などを手伝う。「みんな子育ての悩みは同じなんだなあって、安心した」

 坂口敦子さん(69)は孫が3人いるおばあちゃん。女性だけで立ち上げ、活動している姿に心を動かされて加わった。「私も一緒にやって、元気をもらいたいと思った」

 母親たちの顔つなぎを始めて10年。渡辺さんは今、女性たちがNPOという器を通して、地域に新しい「縁」を結び直しているのを感じる。夜遅く、自宅に相談の電話が入ることは、もうない。(中塚久美子、田中京子)

■ビジネスの「絆」悪くない

 車にたとえるなら、ハンドルの遊びがない状態が今の子育て世代共通の苦しみではないか。仕事、育児、家事と綱渡り。私も、一歩間違うとどこへ落ちるのだろうかと不安になる。NPOを媒介として、新しい「持ちつ持たれつ」の関係を地域に築いていけないか。(中塚)

 私にも覚えがある。保育園が休みの間、息子をみてくれる人がなく、ベビーシッターに頼んだ。息子は親戚のお姉さんのようになつき、互いに子どもを預けあう友人ができるまで、助かった。ビジネスの「絆」も悪くないと思った。(田中)

  

孤族の国

  単身世帯の急増と同時に、日本は超高齢化と多死の時代を迎えます。「孤族」の迷宮から抜け出す道を、読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
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