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孤族の国

ごみ・雪 公の出番 「孤族の国」家族代行―4【全文】

2011年1月29日12時25分

写真スノーバスターズの一員として雪かきをする中学生たち。一人暮らしのお年寄り(中央)から笑みがこぼれた=岩手県八幡平市、川村直子撮影

 「市役所ですーっ」

 毎週火曜日の午後。帽子をかぶった「イケメンのお兄さん」の笑顔が、インターホンのモニター画面に映る。

 京都府宇治市で一人暮らしの藤岡嘉子さん(80)が、心待ちにしている時間だ。

 「ちょうど孫ぐらいの年。孫が来てくれたと思って、うれしくって」

 顔なじみの「お兄さん」は、宇治市役所の職員。一人暮らしで体が不自由なお年寄りの自宅まで足を運び、ごみを回収する専門スタッフだ。「ふれあい収集」と呼ばれる。

 通院などで留守にする日は、「お兄さん」に置き手紙。「風邪ひかんようにね、とか一言添えて。ごみバケツの内側に貼っておきますねん」

 玄関から門までの石段は11段。そこからごみ集積場まで約50メートル。若者なら目と鼻の先の感覚だが、藤岡さんにとって「ごみ出し」は苦行だった。

 「一歩歩いて一服、また一歩歩いて一服。ひざが痛くて往復に30分かかった日もある」

 3年前に夫を亡くして1人になった。でも、滋賀に住む長男が毎晩、体調を気づかって会社帰りに電話をくれる。長女は車いすを押して東京旅行に連れていってくれた。玄関には孫3人の大きな写真。離れてはいても、心の絆は切れていない。必要なのは、日々の暮らしを支えてくれる「手」だ。

     □

 宇治市が、ふれあい収集事業を始めたのは2009年春。利用者は約200人。今も月平均9件の申し込みがある。

 ごみが出ていない、声かけに反応がない――。収集先で異変を見つけたら、登録されている緊急連絡先に電話する。安否確認サービスだ。通報は多いと1日4、5件。単なる留守が多いが、風邪で寝込んでいた高齢者をいち早く発見したこともある。

 見えてきたのは、「玄関に出てくるのが精いっぱいという一人暮らしのお年寄りが、こんなにたくさんいるのか」と収集スタッフも驚く現実だった。

 話し相手を待ちわびるお年寄りとの世間話は、ときに10分、20分。呼び鈴を押してから玄関先に顔をだすまで何分間もかかる人もいる。効率で割り切れぬ仕事だ。ときに、お礼の手紙も届く。

 網の目のように地域を回るごみ収集スタッフが、家族代わりにお年寄りを見守る「目」となる。担当課長は「やりがいがあります」と言った。

■高齢者訪問 中学生も

 「おはようございまーす」

 1月半ばの日曜日。元気よくあいさつをした中学生4人が、大人がスコップでかき出す雪をソリで運ぶ。杖をついて玄関先に出てきたお年寄りが、「ありがてぇ、ありがてぇ」とつぶやく。

 奥羽山脈に抱かれた豪雪地帯、岩手県八幡平(はちまんたい)市の安代(あしろ)地区。10人の除雪隊が一人暮らしの高齢者宅でボランティアの雪かきを始めた。大雪の今年、軒先まで雪に埋もれていた平屋の家が、15分で姿を現した。

 見回る先は28軒。夫を亡くして10年以上前から一人暮らしの女性(86)は「自分の子にも、よう頼めんことをやってくれる」。長男と長女は県外で暮らし、度々の帰省は難しい。両足が悪く、立ち上がるのもひと苦労だ。「正月はひでぇ雪で、窓が割れるがど心配したよ」

     □

 過疎化に悩む「地方」にこそ、再び絆を育むヒントがある。

 安代地区は人口約5400人。高齢化率は4割を超える。雪はずしりと重く、年を重ねた体での除雪作業は無理だ。玄関が埋まれば家に閉じ込められ、古い家ならつぶされかねない。

 そんな事態を防ごうと、約15年前に地元の社会福祉協議会がつくったのが除雪隊「スノーバスターズ」だ。60代以上の近所の住民が中心だが、中学生もクラブ単位で参加する。福祉教育の一環だ。民生委員の情報や面談で、対象となる高齢者宅を決める。活動は週1回で無料。1月から3月まで続く。

 絆は求めて結ぶもの――。社協支所長でバスターズの川又登志子さん(56)が抱く思いだ。

 安代地区の出身。20歳で結婚したが、甲状腺を患って入院。退院後も耳鳴りやめまいに悩まされ、20代には家にこもっていた時期がある。「絆って、当たり前にあるものじゃないんだって気づいた」。34歳で社協の職員に。過疎化でほつれた地域の絆を、結び直そうと思った。

 「雪国の冬は大変よねー」。何げない問いに、お年寄りが思わぬ言葉を返してきたという。

 「バスターズで元気な子どもたちが来るのが楽しみ。3日前からわくわくして、3日余韻を楽しむ。だから1週間はあっという間。気づいたら春がくる」

 この日、バスターズがそのまま通り過ぎた家があった。近所の人が率先して雪かきを済ませてくれたらしい。15年たって、そんな家が増えてきた、と川又さんは笑う。

 「私の目標はね、バスターズの解散なんです」

■助け合い 確かな可能性

 「孤族の国」第2部では、NPOや民間業者による「家族代行」の動きに焦点を絞り、取材を進めてきた。ただ、家族の支えが弱くなって生まれた空白を、お金で買った民間サービスだけで埋められるはずはない。本来、こういう時代こそ公共の出番。期待を込めて、最終回は「公助」「共助」の現場2カ所に足を運んだ。

 ごみ収集も雪かきも、決して派手な取り組みではない。だが、そこには確かな可能性があると感じた。財政難の時代でも、公共にできることは、まだまだあるはずだ。「孤族」の未来を支える知恵と工夫を、私たちみんなで育ててゆきたい。(清川卓史、高橋健次郎)=第2部おわり

  

孤族の国

  単身世帯の急増と同時に、日本は超高齢化と多死の時代を迎えます。「孤族」の迷宮から抜け出す道を、読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
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