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民具は語る スラブ文化 消えた村から―5

2009年4月23日15時2分

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写真チェルノブイリ市の映画館だった建物を倉庫代わりにして保管されているポリーシャ地方の民具=小宮路勝撮影

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 殺風景で古めかしい集合住宅、素っ気ない表示板、街角に今も立つレーニン像――。ウクライナ北部チェルノブイリ市は「ソ連」色を濃く残す街だ。23年前の原発事故で時間が止まったかのようだ。

 原発から12キロしか離れていない同市の市民は事故後全員立ち退いた。ただ、事故当時の風向きなどから最悪の放射能汚染は免れた。現在、交代で滞在する原発周辺の作業員や警察官ら約6千人が住民になっている。

 定住者がいないため子どもの姿は全くない。生活感が極端に欠けた街角に、ソ連時代の映画館がある。ウクライナ非常事態省文化遺産保護研究センターのロスティスラフ・オメリャシコ所長(54)の案内で重い扉を開けて中に入った。家具、衣服、食器、楽器――広さが280平方メートルあるという館内は、ありとあらゆる民具や生活用品であふれかえっていた。

 オメリャシコ所長らが20年近い調査で集めたポリーシャ地方の民俗資料だ。多くは廃屋にうち捨てられていたもの。放射能を除去し、分類、整理した。この映画館のほか、キエフ市内の軍の厩舎(きゅうしゃ)跡や同国北部イワンキフの倉庫など、5カ所計650平方メートルの施設に分けて保管している。その数は計4万3千点に及ぶ。

 その中には、古代から培われた自然に関する知識やこの地方で生きてゆくための知恵と技術が詰まった物が数多くある。

 養蜂用具 この地方では木の上に仕掛ける独特のミツバチの巣箱が使われていた。その様々な形態を収集。

 「トゥルバ」 木の枝と根を組み合わせてつくる長さ1.15メートルのラッパの一種。5キロ先まで鳴り響き、これで牛を集めるという。

 刺繍(ししゅう) この地方の民家は、家の造りは質素だが、赤と黒2色の刺繍で飾られた室内はどこもカラフルだ。素朴な模様は、古くからのスラブの意匠を今に伝えている。

 原発事故まで、村人たちは自らの手で生活のための道具のほとんどを作っていた。「強制移住で都市部に移転した人々は消費社会に慣れ、もはや道具を自分で作ることはなくなった。これらの民具は、事故前の人々の生活の証人なのです」とオメリャシコ所長。所長の夢は、民具を1カ所に集めた博物館をつくることだ。「一度は死んだポリーシャ文化をそこで復活させたいのです」。ただ予算はなく、実現のめどは立っていない。

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