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最古の民謡 継承の試み 消えた村から―6

2009年4月24日14時11分

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写真ポリーシャ地方の舞踊を披露する国立キエフ文化芸能大学の学生楽団「アンサンブル・クラリチャ」=小宮路写す

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 アコーディオンに似た楽器ガルモーシカと笛、太鼓の伴奏に合わせた声量たっぷりの独唱、ぴたりと息の合った合唱、スカートを膨らませながらくるくる回転する独特の踊り。演者は、赤と黒の刺繍(ししゅう)が特徴の民族衣装に身を包んだ若い男女11人。演目が終わると、大きな拍手が降り注いだ。

 ウクライナの首都キエフ市内の小さなホール。古いスラブの文化的特徴をよく残す北部ポリーシャ地方の民謡のコンサートがあると聞き、訪ねてみた。

 この楽団は「アンサンブル・クラリチャ」という。ウクライナの民謡、なかでもポリーシャ地方の歌の継承に力を入れる。メンバーは国立キエフ文化芸能大の学生たち。こうした小コンサートを月に10〜15回開くほか、旧ソ連諸国を中心に国外公演に出かけることも少なくない。CDも出している。

 強みは、ポリーシャ地方の村人から直接民謡を学んでいる点だ。毎月、時には1週間がかりで放射能汚染が比較的少ない村に調査旅行に出かけ、お年寄りの歌を聴く。

 「その歌を録音して帰り、大学で練習を重ねた後、再び村を訪れてお年寄りたちに披露して指導してもらうのです」と、両親がポリーシャ地方出身というエフゲーニア・ステパノシコさん(20)。一つの村に何度も通い、その村の歌を身につけると同時に、この地方の方言も習得する。こうして、楽団はレパートリーを徐々に増やしてきた。舞台で着る民族衣装も村人がかつて使っていたもの。各地の衣装を集め、演目に応じて着替える。

 楽団主宰者のイワン・シネルニコフ教授(48)は民俗学の研究者で、ポリーシャ文化に魅せられた一人。「ほかの地方では流行歌に押されて廃れてしまったような昔ながらの歌が、ポリーシャにはまだ残っている。これを発掘する作業には、若者たちも大いに関心を抱いているようです」と話す。

 活動を始めて10年余りになるが、学生楽団であるため、メンバーは毎年入れ替わっていく。イワンヌ・ドジブルクさん(19)は「卒業しても、この民謡の魅力を子どもたちに伝えるような仕事につきたい」と夢を語った。

 ポリーシャ地方の文化を拾い集めようと奮闘する人がいる。受け継ごうとする人がいる。チェルノブイリ原発事故で多くの村が消えたが、その試みが続く限り、このスラブ最古の文化が消えることはないはずだ。=「消えた村から」おわり。

(この連載は国末憲人、写真は小宮路勝が担当しました)

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