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民族語より国家統合 言葉よ、よみがえれ―3

2009年6月3日15時9分

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写真地元の子供たちの前でバンティック族に伝わる「戦いの踊り」を披露する長老=スラウェシ島マナド、矢野写す

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 「食事は済んだ?」。インドネシアのスラウェシ島北部マナド周辺の農村に住むヘミーさん(46)が、民族固有のバンティック語で長男のマリフさん(20)に話しかけた。「まだだよ」。マリフさんはインドネシア語で答えるので、いつも会話がごちゃ混ぜになる。「息子がバンティック語を理解できるのは30〜40%。孫の世代になれば理解力はもっと落ちてしまうのではないか」とヘミーさんは心配する。

 マナド一帯には、九つの少数民族と周辺諸島からの移民が暮らす。その一つのバンティック族は、フィリピン南部のミンダナオ島付近がルーツだとの説もある。現在、バンティック語の話者は数千人程度と見られているが、10〜20歳代の多くは会話が困難だ。

 約300の民族が共存し、数百の民族語の「宝庫」とされるインドネシアでは、45年の独立時にインドネシア語が「国語」に指定され、国家統合のシンボルとして国土の隅々まで浸透が図られた。特にスハルト政権では、民族のアイデンティティーは抑圧されてきた。

 子供たちは学校では国語を使い、安定した職に就くには国語の習得が不可欠だ。若者の間では民族語を話すことは「恥ずかしい」ととらえる風潮すらある。バンティック語の調査を続けてきた明星大学の内海敦子講師は「このまま行けば、将来、バンティック語の消滅は必至だ」と指摘する。

 それに追い打ちをかけるのが英語だ。マナド市は現在、海洋観光都市としてホテルなどサービス業の発展に力を注ぎ、市教委は英語教育に力を入れる。教育省マナド出張所幹部のモントリ氏は「町を発展させ、市民の暮らしを豊かにするには、英語の習得が何よりも大事だ」と主張する。

 少数言語に詳しいインドネシア大学のムルタミア教授の調査によると、同国では少なくとも170の言語に消滅の危機が迫っているという。パプアやカリマンタン、スラウェシ、マルクなどの島や山間地など都市から離れた地域では深刻で、話者は数百から数十人にまで落ち込んでいる。

 伝承に心を砕くヘミーさんは6年前から、バンティック語や民族伝来の祭事、風習などの復興に地元NGOを通して取り組んでいる。「マナドが観光都市になれば、各民族の文化が観光資源として注目される時が来る。開発と保存は両立できるはずだ」(マナド=矢野英基)

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