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子には継がせぬ蛇使い モロッコの広場から―4

2009年7月16日15時23分

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写真ジャマ・エル・フナ広場の蛇使いの青年たち=アフメド・ベンイスマイル氏撮影

 モロッコのマラケシュにある無形文化遺産、ジャマ・エル・フナ広場では、足元を見ながら歩かなければならない。さもないと蛇を踏んでしまうから――。

 これは、本当のことなのだ。毒のあるもの、ないもの。色とりどりの蛇があちこちでとぐろを巻いている。広場にいる蛇使いは84人。蛇の数はもっと多い。

 蛇たちは笛の音に踊らされて首を持ち上げたり、観光客の首に巻き付いて写真を撮られたり。蛇使いは、特に欧米からの観光客に人気の芸。異国情緒にあふれるからだろう。

 その一人、サイード・エルエサウイさん(35)は父の芸を引き継ぎ、10歳でこの道に踏み込んで25年。「商売が繁盛して、お陰様で毎日ご飯が食べられますよ」

 ただ、仕事は危険と隣り合わせ。手にした蛇の頭を握り、口をこじ開けて歯を見せてくれる。

 「先日これにかまれたんです」。手にあざが残っている。毒蛇ではないのか。「毒蛇だったら今ごろぴんぴんしていませんよ」。8歳の娘がいるが、危険が伴うことから「この仕事は継いでほしくない」という。

 蛇使いたちの話では、ここ30年間で3人が毒蛇にかまれ、命を落とした。その一人はアッバス・シャジャイさん(31)の父で、93年に死亡。6歳から蛇使いの訓練を受けてきたアッバスさん自身も、できれば他の仕事に転じたい。「フランスに出稼ぎに行って仕事をしたいね。ただ、蛇使い以外の技術を持っていないし」。7歳と3歳の2人の子どもも「将来別の仕事を見つけてくれたらいいのだが、果たして見つかるか」。

 蛇使いはもう一つ、大きな問題を抱えている。使う人はいても、蛇がいないのだ。蛇は、熟練の狩猟者がサハラ砂漠で何日も待って捕まえる。そのための技術を受け継ぐ人が今、お年寄り1人しか残っていないという。

 ほかの大道芸にも、悩みは深い。広場で火吹きの芸をしているユセフ・ラキヒさん(25)には3歳の息子がいるが「『学校に行って勉強しろ』と言うつもりです」。収入が不安定な大道芸を子どもに継がせたくない気持ちは、多くの人に共通していた。

 モロッコ文化省は03年、芸人たちへの社会保障制度を導入。芸人たちを劇場に招いて収入の安定化を図るなど企画を進めている。同省現地事務所長で作家のアミン・ベンユーブ氏(43)は「広場の芸術家たちを支援し、励ます態勢を整えたい」と述べるとともに、こう要望した。「芸人も、もっと自らの権利を主張してほしい」(国末憲人)

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