現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 特集
  4. 生きている遺産
  5. 記事

屋台急増 群がる観光客 モロッコの広場から―5

2009年7月17日15時16分

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真夕闇が迫るジャマ・エル・フナ広場。夜が更けるとともに騒がしさも増していく=国末写す

 モロッコ・マラケシュの無形文化遺産、ジャマ・エル・フナ広場の「生き字引」と呼ばれる人に会った。占星術師モハメド・タタさん(54)。毎日午後8時になると広場の一角にやってきて、夜11時ごろまで客の相談を受け付ける。広場で起きることを毎晩見つめて22年になる。

 この間、一番変わったのは何だろうか。「アーティストの広場だったはずが、無形文化遺産と何の関係もないレストラン広場になってしまったことだね」。タタさんは背後に広がる屋台を見つめて苦々しそうに言った。

 広場では近年、郷土料理を振る舞う屋台が急増している。香辛料のきいたカタツムリの煮込み、羊の脳みそ料理、クスクス、串焼き。午後5時になると一斉に広場に組み立てられる屋台に観光客が群がる。売り上げは1軒でひと晩千ユーロ(約13万円)になることもあるという。

 10年前、屋台と芸人は夜の広場をほぼ半分ずつ分け合っていた。今や、屋台が9割以上を占める。かつて広場の主役だった物語の語り手や大道芸人たちは日没以降、広場の西の隅っこに追いやられた。モロッコ民族音楽団を率いるメリエム・アマルさん(43)は「私たちの広場だったのに」と不満を隠さない。

 広場が被る変化は他にも多い。15年ほど前に広場のあちこちで店を広げていた古書売りは姿を消した。伝統芸とは関係ないゲームが近年幅をきかせるようになった。

 このような現状に危機感を募らせる関係者は少なくない。広場の保全と振興をテーマに地元カディアヤド大学がモロッコ文化省などと共催して6月に開いた国際シンポジウムでも、広場の変化をどう受け止めるかが最大の論点となった。

 広場での活動を規制し、伝統的な芸人を支援すべきだとする考えは根強い。広場の保全活動に取り組むウイダード・テバ同大学教授は「広場の変化が速すぎる。観光客受けするかどうかがすべての基準になりつつある」と懸念を隠さない。

 一方、セネガルから参加した考古学者のハマディ・ボクム氏は「生きている文化表現には変化があって当然だ。逆に、新しい要素を受け入れないなら、学者のために保存された文化になってしまう」と述べ、時代の流れに応じて妥協点を探る必要性を指摘した。

 形ある遺産と違い、無形文化遺産は変化を免れない。どのような変化を、どこまで受け入れるか。ジャマ・エル・フナ広場からの問いかけは、あらゆる無形遺産に投げかけられた課題でもある。(国末憲人)=「モロッコの広場から」終わり

PR情報
検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内