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ヤシの旋律、若者に誇り 古代からの音色―2

2009年8月4日16時48分

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写真民族楽器のササンドゥを弾くザカリアスさん=インドネシア・東ヌサトゥンガラ州クパン、矢野写す

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 海風が浜辺のヤシの葉をカサカサと揺らし、打ち寄せる小さな波の音と重なり合う。インドネシア東南部にある東ヌサトゥンガラ州クパン。州を代表する奏者のザカリアスさん(30)が伝統楽器「ササンドゥ」の弦を指先ではじくと、透き通るような音が響いた。

〈関連映像〉インドネシアの伝統楽器ササンドゥの音色

 ササンドゥは、弦を張った竹の筒を軸として、ロンタールというヤシの一種の葉で半円形に覆った弦楽器。左手でメロディーを奏で、右手で伴奏しながらロンタールで音を共鳴させる。「繊細な音色と、ユニークなデザインが魅力。弾いていると不思議に心が休まるのです」とザカリアスさんは語る。

 原形は16〜17世紀、クパンがあるティモール島西方のロテ島で生まれたとされる。島に漂着した漁師と王妃が恋に落ち、王妃のために漁師が弾いたのが始まりと語り継がれている。祭事で歌われる伝統曲の伴奏として、中高年の男性ならだれでも弾けるような身近な楽器だった。

 ところが70〜80年代、過疎化が進み、地元に残った若者もギターなど西洋楽器に走り、ササンドゥに見向きもしなくなった。ササンドゥの歴史に詳しいロテ島出身の州職員ジョニさん(51)は「ロテの自然と文化が生んだ世界で唯一の楽器なのに、消滅の危機だった」と振り返る。

 ザカリアスさんも子供の頃は関心がなかったが、親族が営んでいたササンドゥの工房を手伝うようになったことがきっかけで、「自分で演奏して魅力を伝えないと買ってもらえない」と奮起。手首やつめが痛くなるまで練習し、伝統曲からポップスまで100曲以上を習得。音響をよくするためマイクをつなぐなど自分で楽器の改良も手がけた。

 04年ごろ「すごい弾き手がいる」と、口コミで評判になり始めた。各地で開催される民芸展や催しに頻繁に招待され、ササンドゥが全国に知られるようになった。

 ここに目をつけたのが州政府だ。アンス観光文化局長は「彼の活躍でササンドゥの魅力が再認識された。観光資源に育てたい」と期待する。州政府は去年12月に、クパンでササンドゥ音楽祭を開催。首都ジャカルタの大統領宮殿で、ササンドゥの講習会を開く計画も進むなど、脚光を浴び始めている。

 ザカリアスさんはいま、若者にササンドゥを教えている。生徒の一人のロディアさん(17)は「こんなすてきな楽器だとは思わなかった。ギターより難しいけれど、必ず何曲かマスターしたい」と話す。ザカリアスさんの夢は広がる。「東ヌサトゥンガラの文化が世界から注目されれば、若者たちの誇りになるはずだ」(クパン=矢野英基)

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