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「魂」の伝承、悩む羊飼い 古代からの音色―4

2009年8月7日16時21分

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写真民族衣装でフヤラを奏でる羊飼いのヨーゼフ・ジェツトコさん=スロバキア中部ポトコニツァ、玉川写す

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 羊飼いは孤独な仕事だ。人里離れた山中でひとり羊の群れを追い、だれとも会話をしない日々が何週間も続く。

 「そんな時も、これを吹けば心が落ち着くもんさ」

〈関連映像〉スロバキアの民族楽器フヤラ

 スロバキア中部のポトコニツァ村。14歳で羊飼いになったヨーゼフ・ジェツトコさん(59)が、身の丈ほどもある木管に息を送り込むと、独特のかすれた音色が草原に響き渡る。スロバキアの民族楽器「フヤラ」の音色だ。

 中世の羊飼いたちが生み出したフルートの仲間。ニワトコの木をくりぬいた約2メートルの管と約50センチの管をつなげた構造で、指穴は三つしかない。深みのある高音と低音が重なって響き、山々に散らばる仲間との通信手段でもあった。フヤラを吹くことを、羊飼いたちは「話す」という。

 共産主義政権下でも行事や祭りで珍重されたフヤラは、「スロバキアの魂」と呼ばれる。政府に届け出ているプロの演奏家・製作家は現在65人。趣味のレベルも含めると1千人近い愛好者がいるとみられる。ガスパロビッチ大統領も愛好者の1人だ。

 その国民的な楽器が今、岐路に立っている。

 「フヤラは羊飼いの魂。それを子供たちに伝えたい」

 発祥の地とされる同国中部ジェトバ村で生まれ育ったロマン・マラティネツさん(28)は02年、仲間約40人と演奏家の「組合」を立ち上げた。伝統的な演奏スタイルや製法を後世に伝えるためだ。

 最近、ヒップホップ風にアレンジした演奏が若者の間でもてはやされたり、プラスチック製のフヤラが作られたりして、組合仲間は伝統が脅かされることに危機感を強める。マラティネツさんは、外国人がフヤラを演奏することにも批判的だ。「フヤラは先祖の魂。この土地に住む者が演奏してこそ、意味がある」

 一方で、フヤラが多少形を変えても門戸を広げるべきだという考え方もある。

 首都ブラチスラバ近郊のフヤラ製作者ヤヌ・シュリクさん(51)は、組み立て式フヤラを作る第一人者だ。一つの木から作る伝統技法から見れば、組み立て式は邪道だが、格段に持ち運びが楽になった。ステンレス製や音域を自由に変えられる新型の開発もめざす。

 組み立て式フヤラは、スロバキア大統領からブッシュ前米大統領への贈り物や、メル・ギブソン監督のハリウッド映画の音響としても使われた。7年前、仲間6人と始めたインターネット販売は、日本をはじめ世界中から注文が相次いでいるという。

 伝統の大切さを認めた上で、シュリクさんは言い切る。「楽器は、人が音楽の世界に導いてあげないと死んでしまう。それでは手遅れだ」(スロバキア中部ポトコニツァ=玉川透)

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