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ヨシが支える雅楽の要 古代からの音色―5

2009年8月8日14時15分

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写真雅楽の演奏会でひちりきを演奏する奏者=大阪市天王寺区、矢木隆晴撮影

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 「鵜殿(うどの)のヨシの絶滅は、雅楽の音色の死を意味します」

 この夏、大阪府高槻市にある淀川河川敷の鵜殿地区(75ヘクタール)の保全を訴える署名書が、雅楽奏者や愛好家の間を回った。呼びかけ人には宮内庁楽部をはじめ、大阪・四天王寺、奈良・春日大社などの雅楽界の重鎮の名が並ぶ。3週間で約2万1千人分が集まり、雅楽協議会(東京)が近く文化庁などに提出する。

〈関連映像〉日本の雅楽の音色

 平安時代中頃に完成したとされ、皇室ともつながりの深い雅楽。主旋律を奏でるのが縦笛のひちりきだ。ヨシは「舌(した)」と呼ぶ6センチほどの吹き口に使う。長さ4〜5メートルのヨシから、太さや硬さが適切な舌は一つしかとれない。

 鵜殿のヨシは雅楽の古文書にも現れ、「舌に最適」とされてきた。その鵜殿を貫く高速道路の建設を、大阪府が今春、国に要望したことから、署名運動が起こった。

 「ひちりきは息、つまり舌のよしあしが音色を左右する」と宮内庁楽部楽長の池邊五郎さん(58)。他の地域のヨシも試したが「肉厚で硬くしまっている鵜殿が一番」と話す。

 地元で30年以上、保全に携わる小山弘道・鵜殿ヨシ原研究所長(71)は「鵜殿は乾燥と浸水を繰り返す地形のため肉厚で丈夫なヨシが育つ」と話す。「ヨシは水質を浄化し鳥や虫のすみかにもなる。雅楽の音色は、自然との共生のうえに育まれたんです」

 だが社会も環境も変わり、危機は邦楽器全般を覆う。歌舞伎や文楽に欠かせない三味線も例外ではない。

 良質の三味線は、棹(さお)にインドの紅木(こうき)、胴にタイなど東南アジアのカリンを使う。だが文化庁の03年度の調査によると、絶滅危惧(きぐ)種を保護するワシントン条約で輸入が規制されたり、原産国で伐採禁止になったり。使えそうな木材があっても、高値で買う中国向けに輸出され、日本にいい材料が入らない。

 胴に張る猫や犬の皮は中国やタイなどからの輸入に頼るが、各国で動物愛護の立場から反対の声が起きたり、食する習慣が廃れたりして、皮の入手が難しくなっている。

 ただ、材料不足を嘆く声は意外なほど大きくない。

 「むしろ問題は邦楽人口の激減。今は需要がないから材料もいらない。だがこのままでは技術が消え、今あるものの修理もできなくなる」。東京都江戸川区で琴や三味線を商う「向山楽器店」の向山正成さん(58)は嘆く。

 「伝統」とは何であろうか。材料を巡る異変は過去にもあっただろう。むしろ変わらずに受け継がれてきたのは「後世に守り伝えたい」という思い。伝統の音色を奏でるのは、その思いではないだろうか。(小川雪)=「古代からの音色」終わり

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