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神秘劇とヤシ園 街の宝 世界遺産とともに―1

2009年11月30日16時7分

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写真エルチェの神秘劇の一幕=エルチェ神秘劇協会提供

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 街全体がすっぽりとヤシの木に覆われたかのようだ。スペイン南東部エルチェの街を取り巻くヤシ園には、人口とほぼ同じ20万本のナツメヤシが育つ。この地方を支配したアラブ人が10世紀、北アフリカの水利技術を使って整備。2000年に世界遺産に登録された。

 アラブ人が故国の街モロッコ・マラケシュに似せてつくったエルチェは、13世紀にスペイン人が奪還してキリスト教化された。ただ、アラブ人が残した伝統は様々なところに息づいている。15世紀ごろに形成された無形文化遺産「エルチェの神秘劇」でも、アラブ人が残したヤシが重要な役割を担っている。

 神秘劇は毎年8月14、15日、サンタマリア聖堂を中心に演じられる一種のオペラだ。聖堂内に設けられる舞台や街路の一部を利用。聖母マリアの被昇天を2日間にわたって音楽劇で描く。カトリックは教会内での劇を禁じているが、この神秘劇だけ例外的に認められているという。

 劇の中で、復活の象徴として用いられるのがヤシの葉だ。教会の高さ25メートルの天井から大仕掛けでつるされて降下する天使が、死の床にあるマリアにヤシの葉を渡し、マリアは天に昇る。「砂漠の中で豊かな実を実らせるヤシは、生命や復活の象徴と見なされてきた」と、ヤシ園を管理する市のフランシスコ・ピコ公園部長。

 市内の病院に看護師として勤務するルイスアントン・ラトゥールさん(51)は、劇で使うヤシの葉づくりに40年近く携わっている。ヤシの木に登って緑の葉っぱを上にあげて束ねて縛ると、真ん中の日光が当たらない場所に白い葉が生えてくる。これを刈り取り、硫黄でさらに漂白。葉の一本ずつに金色の紙を張り付けて完成だ。劇が終わると、ヤシの葉はバラバラにされて観客に配られる。お守りとして取り合いになるという。

 ラトゥールさんは、歌い手としても参加。子どもの頃はボーイソプラノで天使の役、大人になってからは使徒の役を担う。夜勤の多い仕事と練習との両立は大変だが「劇はまさに私の人生ですよ」。兄は舞台監督、息子は聖歌隊員、娘はヤシの葉づくりに携わるなど、一家あげて劇を支えるのが誇りだ。

 劇に携わる市民は約300人。子どもの頃から携わってプロ顔負けの歌唱力を持つ人も少なくない。アレハンドロ・ソレール市長(37)は「ヤシ園と神秘劇は、世代を超えて受け継がれてきた街の宝。街の人々の熱意は高く、今後もずっと伝えられていくでしょう」と話している。(エルチェ=国末憲人)

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 無形文化遺産には、世界遺産に登録された文化財や風景の中で育まれてきたものが少なくない。世界遺産と無形遺産を同時に誇る地を訪ねた。

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