現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 特集
  4. 生きている遺産
  5. 記事

伝統木彫り、父から子へ マダガスカルから―1

2010年4月19日15時52分

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真築80年になる村の長老宅の玄関の扉。クモの巣模様の木彫りが全面に施されている=アントエチャ村、千葉康由氏撮影

図拡大  

 窓から差し込む日差しの下でラファハテルさん(48)は衣装箱の制作に余念がなかった。自ら組み立てた箱の表面にノミを当てる。ためらいのない刃先がすうっと曲線を描く。木づちでノミを小刻みに打ち、クモの巣に似た文様を浮き上がらせていく。「あらゆる模様は頭に入っている」

 マダガスカル中央の山岳地帯に広がるザフィマニリ地方には、独自の木彫りの知識と技術が伝わっている。森の多かったマダガスカル各地にかつてあったと推測される文化だが、他の地方で廃れ、文明から隔絶された山間部のこの地方にだけ残された。

 ラファハテルさんは木彫りをなりわいとする一家に生まれ、父親の作業を見ながら育った。「父が教えてくれたことはない。親の仕事を見て材料の見極め方や彫り方を自分で覚えるのがここのやり方」

 長男(20)と次男(18)も自分の仕事を盗み見つつ職人になった。木彫り技術を習得中の三男マルラヒ君(16)は「伝統の技を受け継ぐことに誇りを感じています」。

 一家が暮らす北サカイボ村では、15人の男たちが木彫りに携わる。傘の骨や鉄板などを加工した自家製のノミを使い、家の戸や窓から、家具、置物や小物入れに至るまで、あらゆる木製品に精巧な幾何学模様を刻む。

 その主な意匠は21種類。八角の星形マークは家族の結束、波状の筋は忍耐力など、各意匠が固有の意味を持つ。クモの巣模様は家族のきずなを示すといわれる一方で、死者の霊を絡め取って屋内に入り込むのを防いでいる、との説もある。模造品を防ぐため、各意匠の知的所有権を登録、保護する取り組みを政府などが進めている。

 木彫りの工芸品は旅行者にも人気で、貴重な産業にもなっている。アンテテザンドロチャ村のラシュルマピュニナ・ガステラさん(17)は、中学校から昼過ぎに帰宅すると土産品づくりにいそしむのが日課だ。父親が病気のため、9歳で始めた。

 集落にある文様を見て独習した技術で、置物や皿などを週20個ほどつくる。徒歩3時間のアントエチャ村で週1度開かれる市に母親が持って行って売る。月収は約6万アリアリ(約3千円)。これで、家族の食費や毎月2万2千アリアリの学費を賄う。

     ◇

 アフリカ大陸の東に浮かぶ島国マダガスカルの木彫り技術は、ユネスコ無形文化遺産に登録されている。現地を訪れ、技術と文化、暮らしぶりを4回にわたり報告する。(古谷祐伸、国末憲人)

PR情報
検索フォーム


朝日新聞購読のご案内