緑深い山あいのわずかな平地に、数十軒の切り妻屋根がひしめいている。マダガスカル中部のザフィマニリ地方の村では、家屋はすべて木造だ。その新築現場を、北サカイボ村で見せてもらった。
大工のラベマハラブさん(56)が、壁に張る板を削る。松の木に、ナタの刃をためらいなく入れていく。削り過ぎることも、削り足りないこともない。
柱や板の組み立てには、クギを一切使わない。割った竹で屋根をふく伝統工法だ。
ラベマハラブさんは、大工の家系の出身。「代々引き継いできた技術。どの木材をどう組み合わせるか、全部頭に入っています」。道具はナタと物差しだけ。図面は使わない。こうして建てた家は、村内外で50軒にのぼる。6人の息子たちの指導も進み、後継者に難はないという。
木や竹に関する知識と技術を持つのは、彫刻家や大工に限らない。どの村人も子どものころから木や竹と戯れ、扱うすべを身につける。アンボヒマナリボ村で、ラファオンダインニ君(12)は建材の残りをナイフで削り込み、ドングリの実のような形のコマをつくって見せた。草の皮でコマをむち打って器用に回す。
子どもの遊びのもう一つの定番は、手づくりの竹馬。つるつる滑る岩の上でさえも自在に上下する。
丘の上に伝統的な木造家屋が密集するアンボヒマナリボ村では、住民が5年前に集会を開き、伝統工法以外で家を建てないというルールを決めた。ラクトゥ・マヘファ村長(38)は「貧しい集落に観光客を呼び込むには、昔ながらの集落の風景を守る必要がある」と言う。まだ数は少ないものの、何時間もかけて徒歩で訪れる欧米からの旅行者もおり、村にとって貴重な現金収入となっているからだ。
ただ、伝統にはほころびも見える。村に1軒、トタン屋根の家があった。町で材木業を営む男性が昨年、築いた。「彼はお金持ち。トタン屋根が便利だと言い張り、説得に応じなかった」と村長。
アントエチャ村では、地元出身の有力者が鉄筋コンクリート3階建ての住宅を建築中。長老(74)は「木も減っており、強制はできない」。
木とともにある生活は、他の材料が手に入らない中で、やむを得ない選択だった面も否定できない。現地を頻繁に訪れるフランスの地理学者ダニエル・クロ氏(68)は「村人に今後も不便を強いていくには無理がある。生活を向上させると同時に伝統も維持していく開発を模索しなければ」と話している。