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インカの都 国またぐ伝承 世代をつなぐ―3

2010年9月15日15時56分

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写真クレスピアルの本部前で話すヒメネスさん。後ろにはインカ帝国時代の遺跡がある=クスコ、平山写す

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 「黒い粘土は、まるで気まぐれな女性みたいに扱い方が難しいんだ」と、チリ人の陶芸家ウゴ・ゴンサレスさん(60)は笑った。

 チリ中部の都市チジャンから35キロほど離れた小さな村キンチャマリで、この場所でしかとれない黒粘土を練った焼き物をウゴさんは作り続ける。水差しや鍋、つぼのほか、歌う女性やギターを弾く女性の人形も作る。この焼き物を一目みたいと、遠方から訪れる人々も多い。

 つややかな黒い光沢の焼き物は、ここに代々住む先住民マプチェ族の伝統工芸に、欧州からの移民たちの影響も受けている。伝統の担い手は、この村の人だけだ。

 だが半年前の2月末、M8.8の大地震がチリを襲い500人以上が死亡。震源地に近いこの村でも、窯やアトリエの多くが崩壊した。ウゴさんの陶芸仲間も、多くの人が窯を失った。黒粘土を採るための道具も失われ、焼き物を売っていた市場も、崩れてしまった。あきらめて土地を去ってしまった人もいる。

 危機に直面しているキンチャマリの焼き物を救おうと動いているのは、かつてのインカ帝国の都、ペルーのクスコにある「クレスピアル」という名の伝承センターだ。

 クレスピアルは2006年に、ユネスコとペルー政府が協定を結んで設立された。ペルーの世界遺産マチュピチュの入場料で運営され、ブラジル、アルゼンチン、ボリビア、キューバなど南米、カリブの国々も加わり計10カ国が参加する。無形文化財の専門家が少ない南米で、伝統文化の風化を防ぐためにノウハウや経験を共有し、保護すべき無形文化財の発掘や指定ができるスタッフの養成をするのが狙いだ。

 チリの大地震では、7月にチリで緊急会議を開き、国連に文化財の復興のための基金創設を求めることを決めた。クレスピアルのシルビア・マルティネス・ヒメネスさん(40)は9月、チリを訪れた。「キンチャマリの焼き物も、この土地で続けなければ意味がない。各国が連携して資金を出し合い、代々受け継がれた焼き物を守らなければなりません」と訴える。

 クレスピアルはこのほか、アルゼンチンやブラジルなど南米5カ国にまたがって住む先住民グアラニー族の伝統文化の保護や、アマゾンの森林伐採で神聖な場所や伝統儀式が消滅している問題など、一国では解決できない問題にも協力して取り組もうとしている。

 参加各国の文化財担当者を対象にオンライン研修を開き、文化財の目録作りを教えたり、11月にはクスコで各国から1人ずつを招いた実地研修もしたりする予定だ。

 ハイメ・ウルティア・セルティ事務局長(65)は「先住民やアフリカの文化など、この地域の国々が共有する文化や伝統を各国がどう守っているのか、互いの経験を分かち合うのが大切だ」と話す。(クスコ=平山亜理)

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