現在位置:
  1. asahi.com
  2. ニュース
  3. 特集
  4. 生きている遺産
  5. 記事

上総の伝統、アフリカへ 世代をつなぐ―4

2010年9月16日15時25分

印刷

ソーシャルブックマーク このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真上総掘りをする鶴岡正幸さん(奥)ら=千葉県君津市、米原写す

 アフリカ・シエラレオネ出身のモハメッド・ジャロさん(48)は2002〜07年、日本に滞在し、上総掘(かずさぼ)りを学んだ。千葉県に伝わる深井戸工法だ。

 「アフリカでは水不足が深刻です。貧しい多くの人のために私は井戸を掘ってあげたい」とジャロさん。

 千葉県君津市。水車のような直径約3メートルの木製の輪に入り込んだ人が足板を踏み始めると、輪が回り出した。「ホリテッカン」と呼ばれる長さ約7メートル、重さ約30キロの金属製筒が、上下して地面を打つ。

 この工法が、水不足に苦しむアフリカやアジアで活躍して10年以上になる。伝承者の鶴岡正幸さん(79)は、工法の利点について「やぐらの移動は2トントラック1台で十分。いろいろな場所で1カ月あれば、数百メートルは掘れる」と話す。海外での活用も意識し、「カズサ・システム」と題した英語の冊子や歴史・工法の説明書もまとめられた。

 上総掘りは、19世紀後半に千葉県内で考案された。地中600〜1千メートルを掘ることができる。やぐらの組み上げと解体は簡単で、作業員数人で済む。やぐら一式の費用は約40万円という。

 戦後、水田に引く水の需要が沸騰した。上総掘り職人は引っ張りだこだった。温泉、石油の採掘にも活用され、全国各地から注文が来た。

 ところが今、日本では、機械化の波に押され、途絶寸前だ。地元の博物館は1980年前後から道具類を展示し、普及を図ってきた。同県立上総博物館が中心だったが、08年に閉館。これを木更津市が引き継ぐ形で開館した同市郷土博物館では、道具一式の展示を常設している。

 隣の袖ケ浦市の郷土博物館も開館の82年から解説コーナーを設置。同市内には上総掘り技術伝承研究会が04年に発足し、06年には国の重要無形民俗文化財に指定された。

 関心が少しずつ高まるなか、袖ケ浦、木更津、君津の3市などは04年から3年連続で「上総掘りサミット」の開催に成功する。イベントの掘削体験は数百人が挑戦。君津市は2年前から、同市博物館基本構想検討委員会を立ち上げている。

 「今は、水を掘り出す実用品ではなく、郷土の伝統的道具、深井戸工法の文化を象徴する道具として位置づけている」と、やぐらを操作できる平山愛秋さん(64)も言う。

 君津市の「NPOかずさ」も普及に取り組む。やぐらを組み、市民向けの体験教室を開く。NPO理事長の末原正彦さん(71)は「注目を集めるために、できることから始めないと、手遅れになる」と話す。

 一方、上総掘りを学んだアフリカのジャロさん。現在、貿易代理店の仕事をしながら、ギニアを中心にアフリカ各地を転々とする。井戸はまだ、掘り当てていない。

 「ギニアの政情がよければ、来年2月、上総掘り伝承者の助っ人が日本から来てくれます。希望は、まだまだありますよ」(米原範彦)=「世代をつなぐ」おわり

PR情報
検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介