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ブタの牙 結納に学費に 暮らしの知恵―中

2010年10月19日15時39分

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写真マレクラ島の村々では、儀式に使う人形の口元などにブタの牙を飾る=塚本写す

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 「ブタの牙は、お金と同じ、いや、お金よりもっと大切なものさ。うちは3人の娘を嫁入りさせたから、こんなにたくさん持っている」

 南太平洋上に浮かぶ約80の島からなるバヌアツ。その島の一つ、マレクラ島南西部にあるレンビンウェン村で、村民のアバアルさん(40)が、大きな牙の付いたブタの口の骨を10個も麻袋から取り出し、自慢げに見せてくれた。村では結婚の際、花婿が花嫁の家に牙付きの生きたオスブタを「結納金」として納める習慣がある。牙は装飾品などに加工することもできるため大切に保管しているという。

 同島南西部は海岸沿いに点在する村々を船で往来するしかなく、文化的にも隔離されてきた。人口約500人のレンビンウェン村はイモ類などを栽培する自給自足の生活が今も続いており、儀式や冠婚葬祭の時などに牙付きの生きたオスブタを通貨として利用する文化が残っている。

 村の全世帯がオスブタを最低1頭は飼育。牙の長さに応じて20段階の「価格」基準がある。最高は牙が円状に3周して全長が30センチに及ぶものとされ、ここまで成長させるには15年もかかると言われる。

 バヌアツの島々に人が渡ってきたとされる4千年前、ブタは貴重な食糧だった。次第にブタには聖なる力が宿り、特に牙は成長するにつれて霊力が強まると信じられてきた。ネックレスなどの装飾品や、祭りに登場する仮面や人形の一部に加工されるなど社会的威信を示す象徴でもあり、国旗にもブタの牙が描かれている。

 しかし、バヌアツの公式通貨バツ中心の経済は無視できない。村民のベラムさん(45)は2年前、別の村にある中学校に通う長男(16)の学費など計2万バツ(約1万7千円)の支払いを、約5センチの長さの牙付きブタ1頭で支払った。パーム油のプランテーションで働くことが現金収入を得る唯一の道だが、ちょうど学費の支払い時期に手持ちの現金がなく、学校側に特別に認めてもらった。ソヤ校長(36)はそのブタを、儀式を控えていた村長に学費とほぼ同額で売り払った。「現実の学校運営にはやはり現金が必要で、生徒全員が牙で学費を払うと困るんです」

 一方で、伝統貨幣を守ろうとする取り組みもある。ペンテコスト島を中心に1986年に各村長たちが始めた「伝統銀行」だ。銀行の運営者の一人で、女性村長を務めるリニさん(55)は「必要なモノだけを、必要な時に買える仕組みにしたい」と設立の趣旨を説明する。預金者は、ブタの牙や貝殻など通貨と同じ価値を持つとされる11種類の品物を預け、銀行がその価値を鑑定したうえで、バツとは異なった独自の通貨に基づいた預金額を決める。利用者は計5万人にのぼるという。

 リニさんは「国民に伝統文化の重要性の認識を高め、子どもには『足るを知る』という考えを教えている」と話す。(マレクラ島=塚本和人)

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