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 戦後にソニーやホンダを生んだ日本だが、米国アップルのような会社はもう生まれないのだろうか。世界を変える商品を出すベンチャー企業を、どう育てるかは日本の今後にとって重要な課題だ。一度は失敗したが、今またベンチャー企業を生み出そうと取り組んでいる堀江貴文さんと夏野剛さんが語り合った。

2015年11月5日

構成/安井孝之 写真/竹谷俊之

新しい事業、経営者がいない

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堀江貴文(ほりえ・たかふみ)氏 ほりえ・たかふみ 1972年、福岡県生まれ。元ライブドア社長。プロ野球近鉄やニッポン放送株買収などで注目される。2006年、証券取引法違反容疑で逮捕され実刑に。11年6月から13年3月まで服役した。民間ロケットの開発を行うSNS株式会社ファウンダー(創業者)。最新情報は「HORIEMON.COM」へ

夏野 ホリエモンはベンチャーの役割とは何か、新産業を生み出すにはどうするべきなのか、という話ができる数少ない日本人の一人。日本のベンチャーはいま、どんな状況だと思う?

堀江 最近そういうテーマで話をすることが多くて、いろいろ分析して思うことは、「やる人がいない」「プレーヤーがいない」ということ。一番困っているのは、新しい事業を始めたいと思っても、ぶっちゃけ、経営者がいない。社長がいない。

 VC(ベンチャーキャピタル)の経営者らと話すと、彼らはもうマイナー出資の方がいいと言う。マイナー出資の場合は、その社長がやりたい事業に対して投資する形でないと意味はないけれど、実際は社長が本気でやりたい事業じゃないことが多い。結局、ダメになってしまう。

 僕が作ったサービスでも、社長をみつけるのが大変です。逆に社長が見つかるとポンポンポンと事業はうまくいく。

夏野 ホリエモンの場合は、アイデアもあって、投資家もみつけてあげているよね。ベンチャー創業期の社長の役割は、アイディアを生みだすこととお金集め。その大変な部分をホリエモンが担っているのに、その後を引き継げる人がいないなら、もしかしたら、ベンチャー人材でなくてもいいかもしれない。つまり、大企業で優秀なサラリーマンだけれど、山っ気ゼロではない奴(やつ)なら社長をやれるかも。特に20代の大企業サラリーマンなんてろくな仕事がないから、大企業から引っ張ってくるのがいいかもしれない。

堀江 結局、どうやってマッチングさせるかという話なんですが、大企業を辞めて来る人は多いかなあと思うけれど。

写真 夏野剛(なつの・たけし)氏 1965年生まれ。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。NTTドコモ時代に、「iモード」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げた。ニコニコ動画のドワンゴの取締役もつとめる。

夏野 ホリエモンが会員制で運営しているサロン(堀江貴文サロン)にはそんな人材が多く来ているのではないですか。

堀江 意外といないです。起業家だったり、起業しそうな人は100人に1人ぐらいです。

夏野 そんなもんでしょう。100人に10人もいたらすごいよ。

堀江 一応、そういう人が集まってくれると思ったのですが、まあ、100人に1人ぐらいですね。

夏野 ちなみに僕のブログの読者も結構、傍観者的な人が多い。この前、絶対面白いことになると思うビジネスのアイディアを公開したのです。これから事業化しようと思うから、やりたい人は手をあげて、と言ったけれど誰も手をあげなかった。

堀江 黙ってやっているのかもしれない。

夏野 そうかもしれない。でもせっかく、アイディアをあげるよと言っているのに、黙ってやるよりも、相談してきた方がいいと思う。しょうがないから、自分でやろうと思って、ちょこちょこやっている。いいアイディアで世の中のためにもなるから、引き受けてくれる人がいて欲しかった。

堀江 少し前につくば市(茨城県)で講演して思ったんですが、筑波研究学園都市って、起業するような人材の宝庫になるはずですよね。筑波大学や国の研究機関もたくさんある。すごい技術のシーズが集まっているのに、なぜシリコンバレーみたいにならないのか不思議です。

夏野 金がついてくるかどうかじゃないですか。筑波に住んで技術開発している人たちとマーク・ザッカーバーグ(Facebookの創業者)やラリー・ペイジ(Googleの創業者)とかと比べてみても、「おタク度」はあまり変わらない。新しいサービスの最初の段階で、いきなりやってきて、「よしっ40億円つけるからでっかくしよう」という奴がいるか、いないかの違いのように思う。

堀江 いやいや日本でも40億円ぐらいは出す人はいますよ。

夏野 僕はいないと思う。例えばFBでは、ほとんど収入がゼロといった段階でも巨額の資金の出し手が現れた。スタートアップの時点で将来の企業価値を評価して、巨額の出資をするような人が日本には少ないように思う。

堀江 日本でも10億円、20億円ぐらいならあるんじゃないかと思うけれど。

夏野 お金の問題だけでなくて、技術を開発している側にも問題はある。「未踏IT人材発掘・育成事業」(独立行政法人情報処理推進機構が進める事業)に関わっているんですが、かなりの技術を持っているのに、「どんなビジネスモデルですか?」とたずねると、「そんなの考えていない」となる。それなら「最高でも5千万円ですね」ということになってしまう。技術を開発するばかりで、事業化にあまり関心がない人が多いのではないだろうか。

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「パワープレー」を受け入れない人が多い

 ベンチャー人材というのは、最初はベンチャー人材ではないのだけれど、途中からボーンと仕組みでブーストされる人材と、最初からモチベーションが高くて「俺はやってやる」と思っている人材と二つに分かれると思う。

堀江 ベンチャー企業が成功するのに必要なのは、多くの力を集中して点を取るような「パワープレー」なんです。力業でねじ伏せなくてはいけないのですが、パワープレー自体を受け入れない人が多い。

夏野 ベンチャー人材の方にですか?

堀江 そう。僕が最近よく話すのが、「QDレーザ」という会社についてです。東大の荒川泰彦教授らが約30年前に提唱した技術で、LEDの効率がすごくよくなるのです。

夏野 どういう理屈ですか?

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堀江 半導体に電圧をかけるとレーザー発振するのですが、これまではレーザー発振に寄与しなかった電子もあらかじめ動きを制限してしまえば低い電圧でもレーザー発振が可能になるという理屈です。荒川先生が提唱された「量子ドット」は、電子が1個入れるぐらいのミクロ穴「量子ドット」を、半導体の上につくり、その穴に電子が入ると、ものすごく小さな電力でもレーザー発振するという考え方です。

 ミクロの穴を開ける方法も技術も分からない段階で提唱されたんですけれど、偶然10年ぐらい前に作り方が分かったのです。あっとおどろくような簡単な方法でした。ある半導体のうえに、別の半導体の結晶を生成していくと、電子顕微鏡でみたら小さな穴が無数にならんでいた。「これって、量子ドットではないか」と発見された。量子ドットの作り方が分かったので、量子ドットレーザーがつくれるようになりました。

夏野 すごいじゃないですか。

堀江 もっとすごいことがあります。コンピューターの電子回路を光回路にすると、消費電力が下がったり、処理速度が上がったりするという利点があるけれど、CPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理装置)などが発熱するために従来のLEDレーザーだと高温になるとレーザー発振しにくくなる。量子ドットレーザーであれば、高温でもその特性上レーザー発振が可能なので、光回路を可能にする技術になる。赤外線の量子ドットレーザー自体はすでにスイッチングハブみたいなものに使われていて、年間7、8億円ぐらいの売り上げがある。

 これはまだたいしたことはない。光回路が実現し、インテルとかクアルコムとかに採用されれば、とてつもなく大きくなります。でもさらにその先にもっと大きな夢みたいな話がある。

夏野 なんですか。

堀江 量子ドットをきれいに並べて整列させた基板に小さな電力をかけると光が出ます。逆に光を当てると、電力をつくることができます。ものすごく高効率な太陽電池ができるはずです。

 さらにものすごくもうかりそうなアプリケーションも考えられている。スマートグラスです。メガネにレーザー光源をつけて、特殊な方法で制御すると、角膜異常の弱視の人でも視力をある程度回復し、社会生活ができるようになる装置が作れるのです。これはものすごいビッグマーケットです。数兆円市場が見込める。

 でもこの事業は富士通の社内ベンチャーです。富士通が過半数の株式を持ち、ベンチャーキャピタルも出資していますが、社長本人は株の保有に関心がない。

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夏野 え~そうなんですか。

堀江 その社長に言ったんです。「これは、ものすごいことになる。まず、視覚障害者はぜったい欲しいアイテムのはず。僕の知っているファンドの金を50億円入れて、あなたが株式の過半数を持って富士通と縁を切る。私たちも3~4割の株を持つ。これはラストチャンスですよ」とね。

夏野 それでどうでした?

堀江 彼の回答はノーでした。一応、サラリーマンだけど、子会社の社長なので、「私はお金がそんなに必要はない」ということでした。僕に任せてくれれば、いま米国の投資家にプレゼンして、50億円は調達できると思う。その後、その企業はいくらか資金調達したようですが、ゴールまで何年かかるか分からない。

夏野 技術があって、ポテンシャルがあるにもかかわらず、経営に対する関心や執着がないから、結果として、できるゲームのサイズが小さくなってしまう。大企業に勤める優秀な研究者の場合はそうなっちゃうかもしれないけれども、ちっちゃいベンチャーの社長も実は同じ。外からお金が入って、自分より優秀な人がくるのは嫌だと。ちっちゃいお山の大将でいたいという気持ちがある。

 上場しちゃったベンチャーの社長さんたちもそうです。株主は、「お前もう無理だろ。別の人物に社長を任せた方がよい」とみんな思っているんだけれど、絶対に辞めませんね。

経営者に「時間の感覚」ない

堀江 事業を立ち上げていくのはパワーゲームなのにそれが分かっていないのです。社内外のすべての力を集めて戦わないと負けてしまうのに、なかなかそうならない。もう一つ思うのは、多くの経営者に「時間の感覚」がないことです。人間の人生って限られているよねということが、意外とみんな分かっていない。

夏野 でも、FBのマーク・ザッカーバーグは、ナップスターの共同創業者だったショーン・パーカーがやってきて巨額の資金をもってくる前までは、経営についてあんまり考えていなかったんじゃないかと思う。ショーン・パーカーが「お前、これを世界に広げないとダメだろう。俺が手助けする。どうする」と言われて、はっと我に返ったんだと思うよ。

堀江 ザッカーバーグはそこで覚醒したわけですよ。たぶんね。

夏野 彼は、一緒に創業した仲間たちをクビにするなどして、経営から外していきます。メンバーを変えないとダメだ、と彼が覚醒したのか、彼が周りに祭り上げられてやったのかは分からないけれど。

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堀江 両方でしょう。彼はそこで、日本人が絶対にしないような二つの決断を下した。最初の一つは、外部の資金を入れて、ジャンプアップにかけた。

 例えば、僕の場合だったら、光通信のお金を受け入れた時です。光通信の創業者、重田康光さんを受け入れるのか、受け入れないのか。あの時の決断は、やっぱり怖かった。重田さんの目は笑っていないんですよ。「やるときはガバチョといくよ」という圧迫感があった。僕はそのころ20代半ば。重田さんは30代半ば。たいして年は変わらないけれど、結構、怖かった。

夏野 何されるかわからない奴から金をもらうのは怖い。それが資本主義ですよ。

堀江 でもそれがないとジャンプできない。もう一つの決断は、仲間を切ることです。これも結構、大変です。

夏野 仲間でも、事業のフェーズによっては合わなくなる。

堀江 普通はそうなる。でも日本の経営者の多くは、真逆のパターンですよね。もちろん長く一緒にやっていくことで、関係が良くなっていく人もいる。それを否定するわけではないけれど、高い成長を求める局面では、それにあった人に代えていかないと負けてしまう。そこを割り切ってやる人たちが増えてこないとダメでしょう。

 いま気になるのは、日本のベンチャー業界が微妙にずれていること。過去のトラックレコードがあるITベンチャーはバブルっぽい金が集まっているけれど、ハードウェア系のベンチャーにはあまりお金が集まっていないギャップがある。これから伸びる業界というのは、トラックレコードはないからリスクが取りにくいのは分かりますが、それでは新しい産業は育ちません。

夏野 ただ今は、バズワード(何か重要な概念のように見えて、かならずしも明確な定義がないキーワード)に対してお金がでる。今、お金がでるのはAI(人工知能)、ロボット。世界的に見てもそうだけれど、VC側に見る目があまりなく、きちんと見て発掘していこうという気があまりないっていうことだ。

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既存の教育システム、変えたい

堀江 もうひとつ不思議なことがある。アメリカのITベンチャー創業者で、成功した人はみんな宇宙事業とかにお金をだしています。投資する側にまわる。テスラモーターズにも出資するイーロン・マスクを筆頭に、ジェフ・ベゾス(アマゾンの共同創業者)、ラリー・ペイジ、ポール・アレン(マイクロソフトの共同創業者)らは宇宙事業に出資している。

夏野 彼らは、今までできなかったことがやりたいのだろうか。

堀江 彼らと僕らはほぼ同じ世代ですが、たまたま1990年代にインターネットの勃興期がやってきて、インターネットにふれてITバブルが起きて、IT革命が進んだ。彼らはみんな多額の資金調達ができて、世界をインターネットが変えていく様をまざまざと見てきたし、自分たちでもそういう世界をつくっていったのです。

 そんな変化を見てきたから、またそういう面白いことをやりたいと思うのです。スマホゲームをつくることとかじゃなくて宇宙開発や自動運転だったり、再生医療だったり。IoT(モノのインターネット)系ならドローンとか。新しいテクノロジーで世の中の人たちの生活をがらりと変えてしまうようなテクノロジーに投資して、また再びITバブルの時のようなドカーンと来るようなインパクトを自分たちの手でつくりたいと思っているのでしょう。僕は自然だと思うのですが、どうも日本じゃ自然じゃないようなんです。

夏野 日本のベンチャー経営者の考えているスケールはそんなに大きくない。夢もあまりない。もともと事業としてやりたいことがあって会社をやっている感じじゃない人が多い。特にITバブルでドカンと稼いだ人は、どちらかというと西麻布で女の子を追いかけていることが好きな人が多い。

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堀江 僕は好きですよ。そういうのも。

夏野 例えば、僕は宇宙エレベーターは事業として、いけると思っている。でもそんな話に乗ってくるベンチャー経営者はあまりいない。世の中が大きく変わるということに関心がない。はじめは「我々の会社は世の中を変えたい」と言ってたのに、成功しちゃうともう関心がなくなり、変える気もない。

 ところが米国の場合は違う。1回成功すれば、個人では使いきれない富を手に入れる。それをどう使おうかと考え、もう1回、面白いことにかけようと思う。

堀江 日本人は、そう思わない人が多いですね。

夏野 日本人の場合は、まず軽井沢に別荘を建てようとか、個人の話になってしまう。そういう人たちから、テクノロジーの話や宇宙エレベーターを実現させたいという話はきかない。関心がないんだよ。ホリエモンのような人は珍しい。

堀江 僕の周りには宇宙やテクノロジーに関心がある人ばかりになっていますがね。

夏野 日本のベンチャーがおかしくなったのは、ベンチャーを優遇しすぎたことにあると思う。2000年代の前半に、上場基準を簡単にして、創業者に上場益というインセンティブを与える政策に偏った。その副作用が出ているのではないか。本来は、新興企業がより簡単に資金調達できて、それを再投資する方向に向かわすことが必要だったのに、社長が上場益を得て、満足してしまったのではないか。

堀江 テクノロジーに興味を持たないのはなぜなんでしょうか。

夏野 目先のテクノロジーに興味がある人は多い。ウェブからアプリの時代になるというと、ウェブやアプリがどうなるのか、と関心を寄せる。でも、自分のビジネスには直接は関係ないけれど、世の中や人類の将来にはとてもすごい変革をもたらすかもしれない大きなテクノロジーとなると関心がない。話題にもならない。

堀江 乗ってもこない。宇宙開発の話もそう。

夏野 僕はSFオタク少年だったので、かたっぱしからSF小説を読んでいた。「SF相対性理論」なんていう本で中学時代に相対性理論も知った。とても面白かった。でも、高校の物理の授業がつまらなくて、理科系じゃなくなった。

堀江 教育の問題が大きいですね。なし崩し的に既存の教育システムを変えていきたいですね。=次回に続く

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