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 日本の成長戦略の一つは観光産業の振興です。円安の効果もあり、訪日外国人は急増。2020年に2千万人という政府の目標は前倒しで実現しそうです。魅力ある観光産業にどう変えるべきかを星野リゾート代表の星野佳路さんに聞きました。「ご当地らしさ」を追求することが大切なようですが、一方で日本人自身の休み方を見直す必要もあるようです。

2015年1月23日

構成/安井孝之 写真/竹谷俊之

宿ごとにご当地らしさを

写真 星野佳路(ほしの・よしはる)氏 1960年、長野県軽井沢町生まれ。慶大卒業後に米コーネル大ホテル経営大学院修士課程修了。91年に星野温泉(現・星野リゾート)社長に就任し、現在は代表。リゾートのブランディングをするとともに、日本各地にある32の温泉旅館やリゾートの運営に取り組んでいる。

夏野 大学で教えていて感じるのですが、今の学生はとてもよく勉強します。それはそれでいいのですが、これからの日本を考えると、何かが足りないようにも思います。星野さんがなさっているリゾート施設の運営を考えれば、クリエーティビティー(想像力)が欲しいのではないでしょうか。今の若者をどうみていますか。

星野 学生の経験でちょっと足りないと思うのは、旅の経験が足りないことです。

夏野 お金がないのかな? 昔は海外や北海道を一人で旅するということがあったのですが。

星野 交通費も高くなっています。昔は志賀高原に行くのに、鈍行で4時間、5時間かかりましたが、安く移動できました。今は鈍行がなくなり、新幹線に乗らざるを得ない。昔は北海道を一周したなんて人は、僕の周りにいっぱいいた。与論島で酒飲んで騒いだなんていう人も。今はいなくなってしまったのではないでしょうか。

夏野さんが指摘される想像力も必要なのですが、旅行業は旅行していないと、旅の発想がなかなか出てこない。それで困っています。

夏野 僕は大学時代から、結構、リゾートが好きでした。いつかはこんなところに泊まりたいな、とパンフレットを見ては、それよりずっと安いところに泊まっていた。

星野 いま、海も若い人には人気がありません。日焼けするからです。海の家や民宿に泊まったことがない若者が多くなりました。私たちが提供している旅館が、その民宿に比べてどう違うのか、ということがあまり想像できなくなっています。

 また旅の発見として、実際に現地で感じたことと、事前の期待との違いが面白かった。ところが今はほとんど全部がネットに出ています。グーグルマップでは写真まである。

夏野 ただ、行けば行ったで、違う発見はありますよね。

星野 それはそうです。だから、私たちが運営する旅館はネットでは公開していない場所を必ず作っています。「星のや軽井沢」であれば、「メディテーションバス」がそうです。やっぱり、実際に行ったときの驚きを残すことはすごく大事です。

夏野 星野リゾートが運営されている旅館で「界」ブランドのシリーズがあります。もとの旅館の運営方法を変えて、ブランドを作り直すというのは、いい意味で伝承されるものと、新しいブランディングや新しいサービスを混ぜるということだと思います。こういう戦略はあまりなかったのではないですか。

星野 確かになかったのは事実です。そのまま伝承する方が楽で、変えるのは大変だからです。

夏野 なぜ変えるのですか?

星野 全部を変えているわけではありません。ハードもソフトも継承すべきものは残していきます。リブランドする理由の一つは健全な運営ができるよう収益を出していかないといけないからです。

夏野 つまり、稼働率を上げるための仕掛けですか?

星野 そうですね。生産性を上げるための仕掛けです。もう一つの狙いは、いろいろな日本の温泉地を巡って旅してほしいので、一つのブランドでいろんなところで温泉旅館を展開しているのです。

夏野 どういうことですか?

星野 日本の温泉地は日本全国にありますが、意外にその近くから集客しています。

写真 夏野剛(なつの・たけし)氏 1965年生まれ。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。NTTドコモ時代に、「iモード」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げた。ニコニコ動画のドワンゴの取締役もつとめる。

夏野 例えば伊豆だったら、東京から行くというふうにですか。

星野 そうです。道後温泉だったら、四国の地元の人たちは行きますが、東京からのお客様は少ない。全国にたくさん温泉があるのですが、近くの人が行くパターンが多いのです。

 私たちは温泉地を巡って欲しいと思っているので、それぞれの温泉地の旅館に特徴があることが大事だと考えます。津軽にある「界 津軽」は津軽でしか味わえない魅力がないとだめなのです。その特徴を出すことに一生懸命、私たちは取り組んでいます。

 キーワードは「ご当地らしさ」です。温泉旅館の施設名はブランド名の「界」ですけれど、界ブランドの施設に宿泊していただければ、ちゃんとご当地らしさを感じられるようにするのが、ブランドとしての一つの約束です。津軽らしい部屋で、津軽の料理が食べられる。津軽三味線も楽しめる……。ご当地らしさを楽しめる様々な演出を用意しています。

夏野 高級旅館に行くと、結構、がっかりすることがあります。こういうグレードだったっけ? と。

星野 グレードは高くても、ほかと一緒だとがっかりします。「巡る」意味はありません。私たちは巡る意味をつくっていきたいのです。施設やおもてなしには違いを出すのですが、ブランドはあえて統一する戦略です。世界の旅行業界は、実はそっちの方に向かっています。

夏野 最近、東京にできたアンダーズ(虎ノ門ヒルズ)というホテルに似ていますね。アンダーズという統一ブランドですが、都市ごとに全部中身が違います。

星野 世界の旅行者の洗練度が増したことも要因の一つに挙げられます。昔は旅行者が同じホテルチェーンに泊まれば、カイロ、ニューデリー、東京などどこでも同じスタンダードを要求しました。部屋はこうで、ベッドはこうで、とみんな同じ。ところが、いまは旅行者の洗練度があがって、それぞれの地域らしさをもっと味わいたくなってきたのです。

 そのような運営方法は、実は日本旅館が昔から行ってきたことです。日本旅館は季節感を意識して滞在を提案し、ご当地感、つまり地のものを用意してお客様に楽しんでいただけるように工夫してきました。今、世界の旅行業界は日本旅館の手法、「日本旅館メソッド」の方向に向かっていることを強く感じています。

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写真

エレベーターの中に畳を

夏野 「アマンリゾーツ」の創業者エイドリアン・ゼッカーさんは、日本の旅館にヒントを受けたと言っていますね。ところで星野リゾートはバリ島にも進出しますが、どんなホテルになるのですか。

星野 「星のや バリ」は日本旅館メソッドを活用していきたいと思っています。今、バリには多くの外資系高級ホテルがありますが、やはり西洋のホテルとして、西洋人にとっての快適さをバリで実現していると思われます。バリ島にいらっしゃったお客様にバリならではの魅力を感じながら滞在して欲しい、バリに来たからこそこういうものをぜひ食べて欲しい、バリに来たらこういった体験はぜひして欲しい、というバリ人の思いがなかなか反映できていないのが現状です。

 バリ島にいらっしゃったら、ぜひこれをやって欲しいというバリ人のこだわりを表現していくことが、私が考える日本旅館メソッドのおもしろさなのです。

 例えば、「星のや バリ」にはエントランスにロータリーはありません。普通、車で到着すると、ロータリーに入りますが、ロータリーは西洋の文化です。バリでは路地のようなすごく細いスリットを通って、入り口に入ります。お客様は「なんでこのようなところで降ろされたんだろう」と不思議に思いながら入っていく。それがバリならではの地域文化を反映したリゾートとしてふさわしい玄関だと思います。

写真

夏野 これからオープンする東京の「星のや 東京」はどんな感じですか?

星野 完全な日本旅館です。玄関で靴を脱いでいただきます。建物は18階ですからエレベーターがあります。しかし、エレベーターの中に畳を敷いて、靴を脱いだまま乗っていただくような演出を考えています。玄関には84室分の高さ5メートルの靴箱があって、そこからお客様の靴をお客様にお出しする下足番をおきます。お客様の顔を見るだけで、靴をさっと出す。お客様はびっくりします。そんな仕掛けを考えています。

夏野 何号室のお客様が部屋を出たかがすぐにわかる?

星野 そうです。それが大事です。

夏野 日本でしか味わえない異次元体験なんですよね。

星野 日本旅館は文化体験の宿です。こういう形式で、今もなお古い良き日本文化が残っている施設はあまりないのではないかと思います。アフリカのサファリでも北欧でもどこでもフォークとナイフで食事を食べて、ベッドに寝ます。部屋の基準も同じです。

夏野 なぜかどこに行っても朝食はクロワッサン!

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星野 その点日本はすごいのです。和食と畳と布団。そして、靴を脱ぐところから始まる。日本文化で18時間の滞在時間をすべてまとめています。これは、本当に貴重な宿泊のスタイルだと私は思います。実は先日、韓国に行く機会があり面白い体験をしました。

夏野 オンドル?

星野 オンドルがある古い旅館をリノベーションした施設を見学する機会がありました。ソウルには西洋型の高級ホテルも数多くありますが、私はこのような韓国ならではの施設に興味があります。

夏野 韓国風の旅館が見直されているのですか?

星野 ええ、見直されているようです。昔からの文化を残しつつ快適性を兼ね備えた旅館に変えていくのです。

夏野 グローバルなホテルチェーンが世界中で同水準のサービスを提供する時代から、それぞれの土地の持ち味を出すチェーン展開の時代に入っているのですね。

日本旅館を海外の都市に

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星野 私の世代のホテルマンは1980年代を経験しています。ホテルオークラが83年、世界的な雑誌のランキングで世界一になりました。この時、日本のホテル業界はピークでした。世界のホテル業界は日本の時代だと思ったものです。トヨタ自動車は世界に進出し世界的なブランドになりましたが、私たちホスピタリティー産業も世界に打って出たいとプライドを感じたものです。

夏野 そのころ、日本のホテルがみんなグアムに出ていった。

星野 とっても日本に勢いがある時代でした。日航ホテル(当時の日航開発)がニューヨークのエセックス・ハウスを買収しました。「とうとう来たか!セントラルパークの前のホテルを買収したか」と驚きました。そのときの朝のニューヨークタイムズの見出しが、「日本のマネーがアメリカの魂を買収した」でした。ちょうど私は米国にいまして、そのニュースを読んで勢いを感じました。書店に行けば、ジャパン・アズ・ナンバーワンが山積みでした。

ニューヨークに日航がホテル(1984年10月31日の朝日新聞より)

 日本航空グループのホテル部門、日本航空開発(本社・東京)は三十日、ニューヨーク・マンハッタンにあるホテル「マリオット・エセックス・ハウス」を取得することにし、同ホテルを所有する米国の有力ホテルチェーン「マリオット・コーポレーション」と基本覚書を交わした、と発表した。年末までに正式契約する見込み。エセックス・ハウスは客室七百十五。ニューヨークの中心、セントラル・パークを一望する好位置にあり、同市の名門ホテルのひとつとされている。

 セゾングループがインターコンチネンタルを買収し、日航ホテルが世界的なホテルチェーンを築こうとした。ところが90年代に入り、様々な要因でホテル業界全体が悔しさを味わうことになりました。

 その後、何が起こったかというと、アメリカの運営会社が一気に日本に進出し、いまや東京には外資系高級ホテルがたくさんあります。このような状況下で、私の夢は日本旅館を海外の都市につくることなのです。

夏野 僕は日本の老舗ホテルの慇懃無礼(いんぎんぶれい)さが気に入りません。財界などのお偉方たちが来たときの対応に特化しているように思えます。外国系のホテルで若い従業員がきびきび動いているのを見ると、日本のホテルは負けていると思うのです。

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星野 運営事業モデルとして収益は重要です。収益を出し、設備を定期的に更新し、働く場所を快適にすることでスタッフのモチベーションは上がると考えています。

夏野 ゴミが散らかっていると部屋はもっと汚くなります。きれいにしておくと、ゴミを捨てられなくなる。これと同じことが従業員にも言えますね。

星野 収益を上げて、常にハードをメンテナンスしていくことが大切です。施設に気合がはいると、スタッフの動きが変わってきます。私たちも、フォーマルな洋服を着ると、気持ちが変わります。まったく同じことがホテルのスタッフにも言えるのかもしれません。

 「星のや 東京」は初めての都市型旅館です。都市で旅館を運営、集客し、利益を出していきたい。外資系ホテルに負けない収益を出すことができれば、世界からは今まで以上に日本のホテル・旅館業界が注目されると考えます。

 それを東京で実現できるかが勝負です。日本には世界に通用する強いブランド力があります。それをしっかり表現し、快適に過ごせ、良質なサービスを伴った施設だと評価してもらえる形にして、世界に進出することは、私たちの夢なのです。

夏野 すばらしい夢ですね。サンフランシスコなんかも十分可能性ありですね。日本ファンは多い。

星野 パリも多いようです。日本ファンの多い世界の大都市で新たな展開ができたらいいですね。

夏野 つまり、日本人相手のビジネスではない?

星野 世界の大都市に行くビジネスマンが、その都市で日本旅館に泊まりたいと思ってもらえたら、と考えています。世界中の道路を日本車が走っている。50年前には考えられなかった事なのに今は違います。

夏野 外国の大きな街ならどこでも和食屋さんがいっぱいある。最近では、和食の漢字の店名に、英語がつかなくなっている。

星野 おそらく日本のおもてなしのホテルが海外都市にあるなんて、いまは考えられないかもしれませんが、いつかは当たり前になり得ると思います。私たちにはポテンシャルがあり、サービスがいいというのはもちろんですが、収益を高める運営の仕組みを持ち込むことがとても重要だと考えております。

夏野 アメリカ人がパリに行って、日本旅館に泊まる、という時代が来る?

星野 その通りです。ヨーロッパをビジネスで旅行している人たちの中には「今日は日本食を食べよう」と思う人がいる。ならば、「今日は日本旅館に泊まろう」と思ってもいい。

夏野 海外に日本旅館ができると、本場の日本に来ようという人も期待できますね。

星野 元祖に行って味わってみようという人も、もちろん出てくると思います。そうなってきたとき、80年代、90年代の反省を日本のホテル・旅館業界は克服したと言われる状態になるのではないかと思います。だからこそ、なんとか東京で日本旅館の運営を成功させたい。「星のや 東京」は非常に重要な試金石だと考えています。=次回に続く

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