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 夏野剛の「日本を元気にする委員会」の第2弾は、元首相で東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会会長の森喜朗さん。2020年の開催に向けて、日本が何をしなければならないかを聞きました。元気な高齢者が増える老人大国の光と影から若者論、教育論、そして話はフィギュアスケートの浅田真央さんへの発言にまで及びました。2回に分けて紹介します。

2014年5月29日

構成/安井孝之 写真/竹谷俊之

五輪招致失敗なら日本はどうなった?

写真 森喜朗(もり・よしろう)氏 1937年、石川県生まれ。76歳。早大卒、69年に衆院議員初当選。文部大臣や通産大臣を歴任し、2000年4月に第85代首相に就任。12年に政界を引退した。2014年1月から東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長。日本体育協会の名誉会長もつとめる。

夏野 もしも東京オリンピックの招致が決まっていなかったら、日本はどうなっていただろう、と思う。増田寛也さん(元総務相)が座長をつとめる「日本創成会議」は、2040年までに今の半数近くの896自治体が消滅可能都市になるという試算を発表しました。人口減少が急速に進みます。日本はどうなるのかと心配ですが、オリンピックの招致で、まだ希望を持てている。20年まではまだいける、と。僕は20年までの間にどれだけプラスのことがやれるかどうかが重要だと思っています。20年からは人口が縮小するにしても、そのスピードを抑えることができるかどうか。その鍵は、20年までにどれだけ将来に向けて投資をするか、です。

森 投資は確かに増えている。夢があるんだよ。最近、いろんな人から電話が入る。80歳を超えた人たちが、「森さんがんばってくださいよ。もう一度この世でオリンピックを見たいんだ」と言ってくる。だから俺も頑張っているんだが、「あなたはいくつだ」と聞くと、「85歳」。「それじゃオリンピックの年は91歳になる。でも大丈夫だよ」と。こんな会話をしている。私自身が76歳だからね。いつ倒れるかを頭にいれてやっているんだが、日本全体の老人は、元気になっている。

 とにかくお年寄りは元気だ。最近も豊洲(東京都江東区)のスポーツジムに行ったんだが、朝10時の開門前にずらーっとじいさん、ばあさんが待っている。「先着順ですか」と聞いたら、そうではない。あえていえば、いい番号のげた箱をさがしているらしい。そんなことなら、ゆっくり来ればいいじゃないかと思うが、それぐらいおじいちゃん、おばあちゃんは元気だ。

 そこで二つの問題がある。一つは、ますます老人大国を助長してしまう。元気な高齢者が、若者にいい知恵をあたえてくれればいいことなんだがね。

写真 夏野剛(なつの・たけし)氏 1965年生まれ、49歳。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。NTTドコモ時代に、「iモード」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げた。ニコニコ動画のドワンゴの取締役もつとめる。

夏野 オリンピックで世界と戦う若者たちを、元気なおじいちゃん、おばあちゃんが応援するという絵になればいいですね。もしも、東京オリンピックが決まらなかったら、日本の衰退は10年早かった。とっても重要なタイミングでした。

森 中高齢者が元気と言えば、ポール・マッカートニーの10万円のコンサートのチケットがすぐに売り切れる。テレビを見ていたら、中年のおばさんが「こんなの初めてよ。10万円払おうと思って来たら、4万が返ってきた。10万円は売り切れだから、6万円で我慢してくれ、と言われたわ」と喜んでいる。様子を見る限り、お金持ちでもなんでもない普通のおばさんなんだよ!

 私も実を言うと、昨年11月のポール・マッカートニーのコンサートを見た。71歳だよ。あのおじさんは。いやおじいちゃんだ。3時間半、途中で、水もほとんど飲まない。日本の演歌のように、ズンタラ、ズンタラと前奏なんか入らない。ジャーン、とすぐに歌が始まる。すごいなあ、と思ったよ。俺のように76歳で、くたびれた、くたびれた、疲れた、って言えないと思ったよ。

 話をもとに戻すと、老人大国が助長されるという問題のほかに、もう一つの問題は、朝日新聞はそんなふうに考えないだろうが、いまの高校生、中学生、子どもに、日本を今後どうしていくかという使命感を持ってもらわねばいけないと思っている。若者たちには、今の便利さ、楽しさ、それだけでなくつらいこともあるけれど、この世の中を引き続き続けていくには、ただ黙っていればいいというわけではないことを知ってほしい。自分たちはこの国をどう受け継ぐか、どういう行動をしていくのかを考えてもらわねばならない。いろんな高校や若い人が集まる会合に行って、元気を出してがんばってくれよ、とエールを送っている。

(夏野剛の逆説進化論)五輪開催は改革への好機(2013/09/21)

 僕は今の日本に一番欠けているのはワクワク感だと思う。オリンピック招致は、将来もっといいことが起きるという前向きさ、楽観、自信を取り戻すきっかけになる………[続きを読む]

夏野 幕張メッセで毎年「ニコニコ超会議」を開いているが、そんなイベントをみると、若者にはパワーがあります。しかもスポーツの世界は間違いなく強くなっている。

森 確かに一人ひとりは強くなっている。

夏野 とくにマイナースポーツ。フェンシングの太田雄貴君とかは、最初から世界を目指している。

森 それは実に頼もしい。また、このごろの若者は新聞に出たり、テレビに出たりしたら、欣喜雀躍(きんきじゃくやく)する。石川県の北国新聞で読まれているのは、小さな町内のバドミントン大会やらの結果。全部出してやると、「ウチの孫が出た」とおじいちゃんやおばあちゃんも喜ぶ。

 NHK会長の籾井勝人さんにこう言ったんだ。「ヤキモチを焼くわけではないが、番組でサッカー、野球にさく時間が多すぎるんじゃないの。なぎなたやトランポリンとかいっぱいスポーツはある。そんなスポーツは10秒も放送されない」と。まあ放送は無理だと思うけれどね。それで会長が代わるごとに、結果をテロップで流してくれないか、と頼んでいるのだが、過去にはしばらくテロップを流してくれたことがあった。でもすぐにやめちゃう。浅田真央ちゃんとか羽生結弦君とかが番組を取っちゃう。今では東京六大学もニュースにならない。東都大学、関西六大学もテレビに出ない。これは問題なんだよ。今の若い子やその親は「ウチが主役」と思っているから、なぜニュースにならないんだ、となる。

夏野 それを解決するのがインターネット。テレビ局は素材がたくさんあるのに流さない。撮った映像をインターネットに流せばいいんです。

写真

最近、少し痩せただろ?

森 話をオリンピックにもどすと、オリンピックが10年も15年も先だったら、みんなその気にならないけれど、6年ならそう遠くはない。今日だって、ずっといろんな会議をしているが、その都度「もう6年しかない」と思う。

 心配しているのはテロ対策。インターネットのサーバーも監視しなければならない。ロンドンやソチの報告を聞いたが、ソチは参考にならない。ロシアは政府が見ちゃいいけないモノをみたり、盗聴マイクを付けたりして、未然にテロを防止した。ロンドン五輪ではハッカーが2億回、攻撃してきたが、全部未然に防いだ。どうやって止めるかは私は分からないが、予兆があるそうだ。日本の場合はロシアと違って政府が盗聴なんかできないから、これはえらいことだ。明日にでも対策をとらなければいけないらしい。

夏野 今からでも遅い。手口もどんどん変わるし、大変です。

森 1分1秒でも早くやらねばならない。そのための機械もシステムも必要だ。それを誰がやるのか。組織委員会、東京都、国……。どの役所? 担当は総務省だろうが、まだ決まっていない。対応が遅れたら大変だ。東京だけの問題ではない。サッカーの予選は東北地区である。聖火リレーは沖縄から北海道まで。それを狙われたらどうするのか?

 オリンピックで若者たちが躍動する舞台をつくるというのは表の話。その舞台をどうやって支えるか。裏方の仕事なのだけれど、話をきいているだけで頭が痛くなるほどだ。

夏野 お金をどう調達するかという話もある。組織委員会の会長はある意味で経営者ですね。

森 走ったり、投げたりするのを強くするのは各競技の強化委員会がすればいい。選手たちが楽しく、すばらしいプレーができるように、多くの人が見て喜ぶように、世界の人が多く来てくれて、エンジョイできるように、アクセスをつくり、すべてを整えるのが組織委員会の仕事です。気が遠くなるような感じだ。最近、少し痩せただろ?

写真

夏野 ちょっとだけ(笑)。僕は次の東京オリンピックは多様性を高めることが、ものすごく大事だと思っています。前回はメジャースポーツでメダルを取ることが最重要課題だった。2012年のロンドン・オリンピックでは日本のメダル獲得数は過去最高。次の東京はそれを上回ろうとするから、メジャースポーツに資源を集中投下するのではなくて、いろんな競技種目でメダルを取るという多様性を発揮すべきだと思います。

森 数打ちゃ当たるということかな(笑)。あなたはいいところを突いている。確かに個人競技はメダルを取るんだよ。団体がだめになっている。バレーボールは取れるかも知れないが。

夏野 昔はチームプレーが強かった?

森 ソフトボールと野球という大票田がなくなった。日本では野球は一番ファンが多いので、野球やソフトが競技種目にまた入ると日本はわき上がる。団体チームがもっとメダルを取れるかが課題ではある。だが、団体種目よりも個人種目が強くなっているということを考えると、最近の日本の子どもたちの感覚が関係している。子どもたちは「僕が4番で、ピッチャーになりたい」と思っている。夏野君がピッチャーで、僕はライト、では面白くない。最近は親御さんが試合についてきて、「なぜうちの子はピッチャーでないの?」と言ってくる。先生も大変だ。

夏野 みんながピッチャーをやりたい、と?

森 親が校長室まで来る。子どもの時から投資をしているから、親は自分の子どもがダルビッシュになれると思っている。それはそれでいいことだが、親の関与が過剰になりつつある。スポーツで成果を出そうとすると、個人競技になり、団体競技で一生懸命やろうとしても、親が賛成しないらしい。

夏野 少子化が進んだ最近の傾向ですかねえ。

森 君のように若い頃から好き勝手にやってきて、今の成功がある、という人もいるが、少子化は意外なところに影響している。私は早稲田の新入学生に講義したのだが、「おめでとう。入学式に一人で来た人は手を挙げて」と言うと、300人ぐらいの学生のうち手を挙げるのは、2、3人。入学式には、新入生の数の5倍の会場を探さなければいけない感じになっている。総長は「大変だ」と言っていた。

夏野 この春の入試で、親がついてきて大学行きのバスに乗り切れない、という話もありました。

東北大2次試験、バス満員受験生乗れず 同行の親増加で(2014/02/26)

 仙台駅では東北大に向かう臨時バスに受験生と一緒に乗る父母が増え、そのあおりで乗り切れない受験生が続出………[続きを読む]

森 愛媛県出身だという新入生に「なぜお父さんお母さんと来るの?」と聞くと、当たり前だという。「下宿を探さなければいけないし、お金も払ってもらわねば」と言う。私は「損しているよ」と言ってやったよ。

 やっと18歳になって自由になって、東京に来て、自分の好きな下宿に入って、きれいなおねーちゃんが働いている花屋の近くに住んで……。俺もやったけれど、3畳一間なのに、親には4畳半だといって、多めに仕送りをしてもらう。こんなすばらしい楽しいことが人生で始まるというのにね。

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