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 「商社マン」と言えば残業もいとわないモーレツ社員の代表格でしたが、伊藤忠商事は午後8時以降の残業を原則禁止しました。その代わり早朝に働けば、割り増しの給料が払われる制度に変えたら、社員に歓迎されているようです。日本の企業社会は男性も含めた働き方を見直さないと、女性の登用も子育て支援もうまくいきません。「当たり前のことをやっているだけ」という岡藤正広・伊藤忠社長に働き方改革から経営者論まで夏野剛さんが聞きました。

2014年12月24日

構成/安井孝之 写真/今村拓馬

残業は午後8時まで「当たり前」

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岡藤正広(おかふじ・まさひろ)氏 1949年、大阪生まれ。74年に東京大学経済学部を卒業し、伊藤忠商事に入社。86年度から13年連続で社長褒賞受賞。2010年4月に社長就任。13年10月から、夜8時以降の残業を原則禁止とした。

夏野 岡藤さんと最初に会ったのは10年ほど前ですね。役員になられる前に、伊藤忠の知り合いから「面白い人がいるから会ってくれ」と紹介されたのです。

岡藤 そうやなあ。まだAKBが有名になっていない頃に、「AKB見てくれ」と言われて、格好悪いのに秋葉原に見に行ったことがあったね。

写真 夏野剛(なつの・たけし)氏 1965年生まれ。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。NTTドコモ時代に、「iモード」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げた。ニコニコ動画のドワンゴの取締役もつとめる。

夏野 秋元康さんを紹介してくれという話から秋葉原に行ったんです。岡藤さんは世界的一流ブランドを、アルマーニをはじめ何から何まで外国から持ってきたブランドビジネスの先駆者ですよね。バブルの頃は伊藤忠の本社一階でやる社員セールの入場券はプラチナチケットのようなものでした。いろんなブランドが安く買えるということで話題になっていました。なぜ伊藤忠はブランドビジネスで有名になったのですか。

岡藤 繊維で商売していて感じたのは、商社が便利屋になっているということ。繊維にしろ自動車にしろ、最初は商社を使って商売をはじめても、うまく行きはじめたら商社を外して、自分たちでじかにやろうとする。例えばルイ・ヴィトンもシャネルも日本の問屋を利用して、日本市場を開拓し、市場ができれば自分たちで展開するようになった。自動車の輸出も最初は商社が手助けをしたが、大きくなったら自社で海外展開を進めてきた。どんな業界もタイムラグはあるが同じで、うまくいくようになったら商社が外されるというケースが増えた。これではあかん。繊維の場合、ブランドの権利や商標を買うことで、商売から外されないようにしようと、ブランドビジネスに力をいれたのです。

 繊維でブランドビジネスを手がけた経験は他の分野でも生かせていると思う。私が社長になったとき、「繊維しか知らん者が総合商社の社長をやれるのか、お手並み拝見や」と社内でも思われていたかもしれないが、商売の基本は一緒だと思う。

夏野 これまで年に1回ほど岡藤さんにお会いする機会があり、お会いするたびに偉くなられた。小林栄三社長(現会長)が岡藤さんを副社長に任命されたとき、僕は「小林さんの最大の功績だ」と思いましたが、その後、社長にまでなられた。正直、社長になられるつもりはありましたか。

岡藤 ずっと大阪勤務だったし、社長になるとは思っていなかった。たまたまや。私をよく知っている部下が、社外の人から私が社長になる前に「どんな人や」と聞かれたらしい。その答えは「ゼロか100」。ものすごく会社を伸ばすか、ダメにするか、という意味で、「ええ加減にせい」と言いたくなった(笑)。

夏野 でもそれは重要なことですよ。日本の経営者はほとんどが「ゼロ」の人。この人ならすごいことをしそう、という人はみんなの脅威になるから社長にはならない。サラリーマンは実はイノベーション嫌いだと思います。9割の人は変化が起きると、自分のやり方が通用しなくなるからイノベーションは嫌なのです。

岡藤 私は変なことは言っていないよ。正論をいっているだけ。

夏野 でもそれが普通の人は怖い。残業をやめさせ、朝型に勤務体制を変えたのも正論ですよね。

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岡藤 当たり前のことをやっているだけ。残業は午後8時まで。それ以降は原則禁止で、午後10時を過ぎたら電気を消して「禁止」にした。昨年10月から試験的にはじめて、今年5月から正式にスタートしたが、もう文句は出ない。最初はいろいろと文句を言った者もいたけれどもね。これまでの商社の働き方はひどくて、夜中も働いていた。商社の仕事はそういう仕事だとみんなが思い込んでいたが、ダラダラやっていただけかもしれない。

 それを変えた。午前8時までに来れば早朝の残業代を5割増しにすると決めた。朝ならどんなに早くきてもせいぜい5時。限られた時間で仕事をするので集中度も増す。

夏野 朝早くきて、残業代が5割増しになるのはすごい。単なる経費削減策ではないのですね。

岡藤 経費削減のためにやったら、会社のエゴになる。午前8時までに来れば、バナナやヨーグルト、おにぎりなどを軽食として無料で提供している。朝早く家を出るようになると、朝食を作るのも大変だから会社で用意するようにした。人事担当者にも「おにぎりの具も毎日変えてやれ」と注文している。みんなが早く来て食べたくなるようなものにできるかどうかが人事担当者の腕の見せどころ。いろいろ工夫しており、全体の経費は減っている。

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夏野 それはすごいですね。

岡藤 夜の残業が多いときは、女性は帰りたくても帰れなかった。帰った後に会議が急にあるんじゃないか、と心配になる。それがなくなった。ある女性社員は午前7時半に子どもを連れて出社、敷地内の社内託児所に子どもを預けて、働き、午後4時ごろに子どもと退社できるようになった。帰路にスーパーに寄って食材を買い、夕食は家で夫と3人で食べられるようになったという。「本当に良かった」というメールをもらった。

 でもこんな程度のことで、世の中で話題になっているのがおかしいのとちゃうかと思う。

残業禁止は三方よし 伊藤忠商事の岡藤正広社長(2014/04/10)

  「残業禁止はお客さん良し、社員、家族良し、会社にも良し。当初は不安の声も聞かれたが、慣れて違和感がなくなった」。伊藤忠商事の岡藤正広社長(64)は………[続きを読む]

義憤から生まれるイノベーション

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夏野 普通の会社はなかなかできないんですよ。9割がイノベーション嫌いですから。

岡藤 なんども言うけれど、私は当たり前のことをやっているだけ。イノベーション好きというわけではない。

夏野 いえ、イノベーション好きですよ。僕は、イノベーションは「義憤」から生まれると思うんです。この会社はおかしいとか、この制度は間違っているという憤りが変革につながります。岡藤さんがやっていることは、「これ、おかしいのとちゃうか」ということを着実になさっている。だからイノベーターですよ。

(夏野剛の逆説進化論)リーダーたちよ、甘えるな(2014/03/22)

 組織内の「和」は大切だが、それではイノベーションが生まれない。違和感やいぶかるようなものの中から生まれ、成功したものがイノベーションだ。イノベーションがなければ………[続きを読む]

 社内で「根回し(事前説明)をするな」とおっしゃっていると聞きましたが?

岡藤 私のところに事前に説明にくる者がまだいるが、「来るな」と言っている。事前説明に来るような者は実はずるい。社長に伝えたと言うだけで「了解をとった」とみんなに言い始める。日本の会社は社長が了解したなら、右へ倣えになりがちだ。それを利用しているわけで、これは案外、腹黒い。会社のカバナンス(組織統治)も効かなくなる。だから事前に根回しはするな、と言っている。

夏野 僕は社外取締役を7社ほどしていますが、同じく事前説明を受けないことにしています。気をつけないと、会社の都合のよい考えを植えつけられてしまいます。会議でのサプライズ感もなくなり、議論も活性化しません。

岡藤 責任者が説明しないとだめや。会議で資料を読んで発言するのもやめさせている。読んでいたら集中力もなくなるし、資料をつくって満足してしまう。昔は、会議で説明者に細かいことを聞く経営者がいた。そのためにたくさんの資料をつくっていた。いろんな設問に答えようとするから、分厚い資料になる。質問に答えようと「ハイこれ」と出してきた紙のページ数は90何番。100枚以上の資料をつくる者もいた。その分、残業も増える。これではあかん。プレゼンだけがうまいだけで、商売ができないのではだめでしょう。

夏野 岡藤さん流の社内ルールはつくっているんですか。

岡藤 あんまりつくらない。

夏野 えー、そうなんですか。

岡藤 仕事にはいろんなケースがある。ルールをつくってしまうとそれに当てはまらないこともある。ケースによって適切な対応を臨機応変に決めていくのがいい。

ルールに縛られず臨機応変に

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夏野 具体的にはどんな例があるんですか。

岡藤 ある女性総合職が単身子連れで海外赴任しなければならなくなった。子どもを抱えて女性一人で海外での生活を立ち上げるのは大変だから、立ち上げるまで彼女のお母さんが一緒に暮らせるようにした。海外赴任のルールをきちっと決めてしまうと、お母さんを連れて行くことなんてできない。臨機応変、きめ細かくが大事や。

夏野 そんな形の海外赴任も認めているとは、面白いですね。

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岡藤 妊娠した女性が飛行機で出張することもある。通常はエコノミー席で出張しなければいけないが、「大変やからビジネス席に乗っていけ」という対応もありだ。もしも妊娠3カ月以上はビジネスOK、といったルールをつくってしまうと、おかしなことになる。

夏野 あと3日で妊娠3カ月になるから出張するのは3日待とう、とか。ルールに縛られて柔軟な仕事ができなくなりますよね。

岡藤 いろんな判断は上司に任せることが大事や。いろんなケースを想定してルールをつくっていたらものすごく膨大になる。

夏野 でも依怙贔屓(えこひいき)があったりするとまずいから、一定のルールが必要ではないですか。

岡藤 ある程度のルールはどこかでつくらなければならないが、それに縛られるのではなくて、常に臨機応変に対応するという基本線は守らないとあかん。

 定年制も問題やね。できる人はいつまでも働いてもらっても良い。子会社の社長の定年は63歳なのだが、その年でやめさせたら可哀想や。

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夏野 70歳ぐらいでもまだまだ元気な人がいますよね。

岡藤 仕事の能力は年を取るごとに個人差が大きくなるので、一律に決めた年齢で定年にするというのはおかしいね。

夏野 もう40歳代で使えなくなる人もいますものね。35歳ぐらいまでは徹夜してでも仕事をこなすことはできる。若いころは仕事の量でなんとかカバーできるが、年を取っていくと人を使ったり、知恵をつかったりしながら仕事をせざるを得なくなる。そのときに差が出てくる。大企業でもベンチャー企業でも40歳を超えてくると、10%は優秀だけれど、残りの90%はしんどくなってきます。社員の評価も一律に年齢で下すのではなくて、ケースごとに柔軟に対応すべきですね。死ぬまで働いてもらいたいと思う優秀な人材もいますから。

岡藤 死ぬまでは極端やろ。働けるうちは働いてもらいたいな。=続く

(耕論)70歳まで働きますか(2014/08/19)

 政府は高齢者の働き手を増やす新成長戦略を打ち出した。働き手の中核となる上限を「70歳まで」に見直す提言も出ている。平均寿命が延びる中、私たちはいつまで働けるだろうか………[続きを読む]

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