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 「商社マン」と言えば残業もいとわないモーレツ社員の代表格でしたが、伊藤忠商事は午後8時以降の残業を原則禁止しました。その代わり早朝に働けば、割り増しの給料が払われる制度に変えたら、社員に歓迎されているようです。日本の企業社会は男性も含めた働き方を見直さないと、女性の登用も子育て支援もうまくいきません。「当たり前のことをやっているだけ」という岡藤正広・伊藤忠社長に働き方改革から経営者論まで夏野剛さんが聞きました。【前回はこちら】

2014年12月30日

構成/安井孝之 写真/今村拓馬

「量より質の時代や」

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岡藤正広(おかふじ・まさひろ)氏 1949年、大阪生まれ。74年に東京大学経済学部を卒業し、伊藤忠商事に入社。86年度から13年連続で社長褒賞受賞。2010年4月に社長就任。13年10月から、夜8時以降の残業を原則禁止とした。

夏野 国内の市場は人口が減って、どんどん小さくなっていきます。10年後に伊藤忠はどんな姿の会社になっているのでしょうか。

岡藤 いま直面しているのは外国人株主が増えていること。伊藤忠はすでに43%の株を外国人が持っている。いずれ47、48%ぐらいまで上がっていく。50%を超えてしまったら、外資系企業になってしまう。そうなったらいろいろと制約が出てくる。外資系では買収できない会社が出てくる。

夏野 通信とか政府の規制が強い業種はそうですね。

岡藤 いまもせっせと海外でIR(投資家向け広報)をして、外国人投資家に株を買ってくれと言っているけれど、悩ましい面がある。証券会社に「なんでこんなことやらなあかんのや」と言ったら、「総合商社で外国人に人気がなくなったらおしまいでしょう」と言われる。「それもそうや」と納得しているが、総合商社にとって大変な時代ではある。

写真 夏野剛(なつの・たけし)氏 1965年生まれ。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。NTTドコモ時代に、「iモード」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げた。ニコニコ動画のドワンゴの取締役もつとめる。

夏野 日本の企業は国内市場が小さくなっていくのだから、海外に出るか、新たな付加価値を創造するしかありませんよね。

岡藤 総合商社だから昔から遠くの国に行って商売を伸ばしてきた。中国は最近、カントリーリスクが高くなったと慎重になっているが、もっとリスクの高いところでもずっと商売をしてきた。今後もその流れは続くが、日本は人口が減るからダメかというとそうでもない。日本人はどんどんいいものを欲しがるようになっている。量より質の時代や。ご指摘のように新たな付加価値を生み出す必要がある。

夏野 新たな付加価値を生み出す時に、多くの日本の会社が苦しんでいることがある。経営者が同じ釜の飯を食って30年という人ばかりだということです。多種多様な人材を抱えていないと新しい価値は生まれません。

 かといってあんまり外の人材ばかりを採っていると会社がばらばらになってしまいます。多様な人材をどうマネジメントするかが難しいですが、岡藤さんはどう思いますか。

岡藤 伊藤忠はコンビニに出資していて人材も派遣しているが、商社の人材だけでは限界がある。商社の人間は店舗を増やすことを考えがちだ。消費者視点に欠けていて、商品開発や店舗設計の工夫が苦手なようだ。消費者視点を持ったコンビニプロパーの人材が必要やね。

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夏野 社外取締役もどんどん入れた方がよいと思いますが、どうですか。社内役員ばかりでは社長の判断が間違っていても「おかしいですよ」とは言いにくい。僕は7社の社外取締役をしていますが、「社長の顔に泥を塗っている」と言われるような意見を率直に言います。社外取締役がいると、ガバナンス(組織統治)が良くなりませんか。

岡藤 それは夏野さんだからいいのだけれど、みんながみんないいとは限らない。社外取締役の人たちは頭が良くて、機転もきくので、なかなか反論もできないこともある。気をつけないと効果を生まないかもしれない。社外取締役の中には役割を勘違いしていて、経営の細部の問題についてコメントをしたがる人がいるとも聞く。もっと大局的な意見を期待しているのに、自分の得意な領域のこまかい意見ばかりをいうような人が社外取締役になると困ったことになると思う。

夏野 そういう面もあるかもしれませんが、社外取締役はいないよりいた方がずっといいと思います。ただ、岡藤さんのおっしゃるような問題もあるので、弁護士や公認会計士の方を入れるのは慎重になったほうがいいと思います。弁護士も公認会計士も仕事の性格上、清濁あわせのむことはできませんから、常に正しいことしか言えないのです。経営においては清濁あわせのむ覚悟が必要なときもあります。弁護士や公認会計士は社外取締役には向いていないかもしれません。

岡藤 そうかもしれんなあ。社外取締役でも議論の落としどころが分かっていればいいのだけれど。

(社説)社外取締役 お飾りにしないで(2014/06/27)

 先の通常国会で成立した改正会社法は社外取締役の導入を強く促し、導入しない企業は「社外取締役を置くことが相当でない理由」を株主総会で説明しなければならないと定めた。………[続きを読む]

役員減らして給料上げた

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夏野 日本の経営者の給料は安いとは思いませんか。

岡藤 実は伊藤忠も役員になっても給料が上がらなかった時期があった。ボーナスを大幅にカットしていたからね。それでは役員になっても夢がない。私が社長になってから役員数を46人から39人に減らし、給料も引き上げた。その代わり1年やってもダメならクビや、と言っている。

夏野 給料を上げると甘えがなくなります。給料が低いと仕事をするにしても「まあこんなものでいい」と甘くなる。

岡藤 頑張りが違う。商社ではそれが大事や。有価証券報告書に出ている伊藤忠の年収(平均)は2013年度において、三菱商事を抜いて商社で1番になった。社内はそれで盛り上がっている。1回上げたらなかなか下げられないので、この調子で頑張るしかない。

(いちからわかる!)「プロ経営者」とはどんな人じゃ?(2014/07/15)

 世界の優秀な人材を集めるには必要だとの声もある。欧米の自動車メーカーのトップの報酬は20億~30億円。ゴーンさんは「日本企業の報酬は低すぎる」と訴えているよ………[続きを読む]

夏野 午後8時以降の残業を原則禁止するなど働き方改革も進んでいるし、業績にもいい影響が出てくればもっと良くなるかも知れませんね。

岡藤 業績にも影響は出ると思う。お客さんからは「伊藤忠は変わった。すごく良くなった」と言われるようになった。これまではお客さんが朝8時半に電話しても社員が出ないということもあったのに、今では電話に出て対応している。絶対に業績は良くなる。今は総合商社で3位だが、必ず1位か2位になる。

夏野 日本の会社は偉くなるほど役割を分担しているように思う。文系、理系で二つのポストを分け合うことがありますよね。大学出て20年も30年も経っているのに、まだ文系、理系と分けたがる。1人で責任を持つようにしなければいけないと思います。たくさんの部門に分けているので責任を押しつけ合ったり、いいとこどりをしたりします。

岡藤 伊藤忠も「部」が多く、利益を出していないような部もある。一定の基準を設けて、部の整理、統合は必要かもしれない。

朝日新聞 金融取材チーム Twitter

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