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 経済は長いデフレのトンネルから抜け出せず、少子化・高齢化の問題や大きな財政赤字を抱えた日本。多くの会社は高度成長期のような輝きはなく、若者たちの就職活動は厳しいままです。どうすればもっと元気な国になれるのでしょうか? 慶応大学大学院の夏野剛特別招聘(しょうへい)教授が日本を元気にする方法を政治家、経済人、NPO関係者などと考え、探っていきます。【前回はこちら】

2014年5月2日

構成/安井孝之 写真・動画/竹谷俊之

民間の方が政府より動きが遅い

写真 長谷川閑史(はせがわ・やすちか)氏  1946年生まれ、67歳。早大卒、武田薬品工業に入り、米企業との合弁会社社長などを経て2003年から社長。昨年11月、次期社長に英製薬大手のグラクソ・スミスクラインからクリストフ・ウェバー氏を招聘すると発表した。外国人社長の起用は初めて。11年4月から経済同友会代表幹事もつとめる。座右の銘は「熟慮断行」。

夏野 社内の生え抜きでない、しかも外国人を後継者に選んだことで、長谷川さんは日本の企業社会のなかでは、頭一つどころか、かなり抜きんでています。それに追随するムードをつくらないといけない。どうやって日本にそのムードをつくっていけるのでしょうか?

長谷川 2012年12月に安倍政権が成立して、アベノミクスで3本の矢が放たれた。いまの日本を冷静にみれば、功罪はいろいろとありますが、相対論でみると、日本に今の安倍政権よりもベターな政権がある可能性があるかといえば、ほとんどないと思います。

 また政府というものはある程度、安定政権となり、優先順位をつけて山積している課題を一つずつ解決していかねばならない。ある程度期間もかかる。それができる可能性を持っている政権は今のところ安倍政権しかない。そう考えるとこの政権にかけるしかない。これもまた極めてロジカルな考え方だと思います。

夏野 政治の現状をみるとリアリティーを持った考え方ですね。

写真 夏野剛(なつの・たけし)氏  1965年生まれ、49歳。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。NTTドコモ時代に、「iモード」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げた。ニコニコ動画のドワンゴの取締役もつとめる。

長谷川 政府ができることをやってくれているなかで、我々民間企業も何ができるかを考えて、いま芽が出ている経済の成長の可能性を強化し、持続的なものにするためにできることをすべてしなければならない。

 民間セクターが頑張らないと日本は成長しないのです。法人税の引き下げなどをして、諸外国と同等の競争条件にしてくれという要求はありますが、そればかりを言うのではなく、自分たちでやれることはやるという姿勢が大切だと思います。

夏野 そういう意味では民間の方が動きが遅いと思います。

長谷川 遅いですね。この春の賃上げで、政府が介入したことについて、経営側も労働側も反発しました。しかし、自分たちが自律的に賃上げすればいいのですが、20年間のデフレの中で賃金が下がるのはあたり前で、ベースアップなんてあり得ない、と考えているような経営者もいるでしょう。そういう人は経済の方向性が変わったときに、いち早く自分たちもその方向に合わせて、成長を加速させようとはなりにくいのです。

 だから政府が介入したわけです。そのことの是非はあるでしょうが、民間企業は、賃上げをする、雇用を創出する、設備投資をする、内需を喚起する、それと同時に成長している国に進出し、富を持ち帰ってくる、ということをまずやってゆかねばならない。

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属人的な関係でトップが決まる

夏野 現状を見ていると、民間と政府がやるべきことを放っておいて、役割を押しつけあっているようにもみえます。

長谷川 リーダーというのは自分の影響力が発揮できるところ、「サークル・オブ・インフルエンス」にまず焦点をあてて、「できることはやる」ということが大切だと思います。自分がなにもせずに、あれをやってくれ、これをやってくれ、というのはリーダーとしてはだめでしょう。まず自らの影響力が発揮できるなかで、新しい環境に対応するために自らも変わるし、組織も変える、というのがリーダーです。

夏野 極めてロジカルで、当たり前のことなのですが、それができている会社はあまりないのでは?

長谷川 そうかもしれません。

夏野 なぜかというと、後継者選び、リーダー選びのところで、ロジカルに考えるのではなくて、人間的な感情論を含めて、極めて属人的な関係で、会長や社長が決まっていくからだと思います。そうなると、一番文句が出ないような人が選ばれる。

 そういう人は「サークル・オブ・インフルエンス」でできることは何だ、とは考えない。みんなの「和」を大事にして、内輪の論理になって、任期中は何もしようとしない。ここにメスをいれないと何も変わりません。後継者を選ぶ仕組みを変えないと、このままでは日本が衰退するのではないかと心配です。

長谷川 「院政」を敷こうとか、影響力を残そうとか、そういうことを考えているようでは経営者として失格でしょう。経営者に必要なのは、自分の利益よりも会社の利益を優先するという忠実義務をぶれずに一貫して果たすことです。

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なぜ経営の悪い例ばかり言うのか

夏野 法律を変えなくても、東京証券取引所の上場ルールを変えるだけで、日本の会社を元気にする手段があると思います。取締役の半数を社外と義務づけたら、相当変わると思うのですが。

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長谷川 変わるでしょうね。いいと思います。

夏野 多くの経営者の方はいいとは言ってくれません。個別の話が入り込んでくる。社外取締役を入れたり、外国人社長だったりしたソニーが必ずしもうまくいっていない前例から否定的な意見が多いですね。

長谷川 なぜ悪い例ばかり言って、いい例を言わないのかと思う。自分でやりたくないために悪い例ばかり言っているようでは、思い切った決断はできないでしょう。多様性、客観性を担保することが社内でも求められているし、社外のステークホルダーからは当然求められている。大勢はそういう方向です。ただ、日本の場合は、ある程度移行期間を設けないと、一挙にはいけないから、少しずつ成功例をだしながら変わってゆくということになるのでしょう。

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夏野 制度と運用がうまくいくと、ぐっと成長する可能性が日本にもあるのではないかと思います。

長谷川 あると思います。

組織内にバーチャルな危機感を

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夏野 ところで日本の場合、個人金融資産が1600兆円もあって、企業の内部留保が300兆円もあるのに、リスクマネーがほとんどないというのはおかしいのではないかと思います。じっと何もせずにとどまっている。

長谷川 ウチは借金をしていますから。

 日本の市場は停滞、もしくは縮小してゆく。一方、20、30年のスパンでみると世界は成長する。戦う相手は、グローバルマーケットであり、グローバル企業です。日本企業と消耗戦をやっている暇はない。それをまずやめなくてはいけないのです。政府もそれを促進しようと、企業再編をしやすいように法律を改正しています。でも、法改正の前でもやっておくべきだったと思います。自分たちでいまやるべき仕事が、わからなければ、個人でも組織でも生きてはいけません。変わるべきだと心底自覚したら変われる。とはいえ、心底自覚した時はもう手遅れになっていることが多いですがね。

 経営者の仕事は、自覚したときに、ロジカルに説明し、あるいは組織内にバーチャルな危機感をつくり、「いま我々は変わらないと本当に生きていけない」と信じ込ませて、変革に結びつけることです。

 日本の場合はそういう危機が起きているにもかかわらず、相変わらず、まだもうかっているからいいじゃないか、俺の間はまだいいじゃないか、となっている。競争相手は待ってくれません。

いまの若者、はるかにたくましい

夏野 企業だけでなく、教育の分野でもそうです。

長谷川 いまや競争相手は同じ大学の学生だけじゃない。留学生や周辺国の大学で学んでいる、母国語プラス英語プラス日本語を使って、ビジネスの世界に入ってくる学生と競わねばならない時代です。その認識が学生にも、大学にもなさ過ぎる。

 グローバルトップテンを目指すような大学はグローバル人材を育成することに焦点を絞って欲しい。一方、地方の中核大学は地方のニーズに合った人材を育成するような多様性があってもいい。ところが総合大学だと東大をトップにしたピラミッドのなかで個性がなくなっている。

夏野 大学の改革が遅いのは、少子化だけれども日本にまだ市場があるからです。でも一方で、いまの若者ほど、厳しい環境に置かれている世代は過去にはありません。

長谷川 それはそうです。

夏野 慶応大でも東大でも就職が決まらないやつは決まらなくなっている。

長谷川 それなら外国に行くという気概があってもいい。

夏野 私が教えている慶応の湘南藤沢キャンパスの学生あたりだと、就職が決まらなければ、起業しようする。起業が選択肢に常に植え込まれている。こういう企業にいって、大きくやりたいけれど、それができなければ、自分で起業しようと、こんな風になりはじめている。いまの若者は実は、前の世代に比べるとはるかにたくましいと思います。

長谷川 大いに頼もしい。

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上位2、3割は我々世代より優秀

夏野 僕はスポーツの世界にそれがあらわれていると思います。スノーボードの「ハーフパイプ」のような国内ではマイナースポーツですが、それを喜んでやっていて、最初から世界を目指している。いまの若者の方が強靱(きょうじん)かも知れません

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長谷川 私は団塊の世代のはしりですが、あのころはみんなワッショイワッショイと、あんまり考えずに生きていけた。自分たちの可能性があまり見えてなくても、明日は今日より豊かになると思っていた。

 しかしいまは、自分で切り開かねばならないし、停滞の20年を経験した。そのためか、トップの2、3割の人は、自分の個性を伸ばし、能力を発揮してやろう、起業をしてやろう、海外で学ぼう、海外で活躍しようという人がいる。その一方で、そうでない人たちと二極化しているのではないかと思う。

 若者の中でも上位2、3割の人は、我々の世代よりも優秀だし、そういう人たちが次の時代の日本をリードしていくといっていい。私はそれを期待し、信じています。=終わり

【動画】武田薬品・長谷川閑史さんとの対談を終えて=竹谷俊之撮影

朝日新聞 金融取材チーム Twitter

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