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〈ネットはいま〉第1部―2 洗剤を買った人

2008年11月10日14時18分

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写真ITジャーナリストの佐々木俊尚さんは、ネット上に浮かび上がる人のつながりに着目する

 「この商品を買った人はこんな商品も買っています」

 ネット通販大手アマゾン・ドット・コムでは、欲しい商品を検索すると、その説明画面に、こんな「おすすめ」商品が表示される。ほかの利用者の購入実績などから、自動的に導き出される一覧だ。

 この春、アマゾン日本版で不思議な現象が起きた。ある洗剤の商品名を検索すると、何の関係も無さそうな「おすすめ」商品が次々に現れる。薬品、家電製品用のタイマー付きコンセント、ポリ袋、そして「自殺」に関連する書籍。

 このころ、浴室などで硫化水素ガスを発生させる自殺が、各地で相次いでいた。ある洗剤と薬品を混ぜると、ガスが発生する。そんな情報がネットで流布していた。

 特定の洗剤を買った人が、混ぜるとガスを発生させるという薬品を買い、「自殺」関連書籍を買っていた――。「おすすめ」が示していたのは、そういうことだった。アマゾンジャパンは対策をとり、現在この表示は出てこない。

 「慄然(りつぜん)とするのと同時に、悲しくなった」。ITジャーナリストの佐々木俊尚さん(46)は、知り合いの雑誌編集者から教えられてこの現象を知った。「アマゾンに現れたのは、単なるモノたちの陳列表示。だが、その画面の向こうに、今まさに自殺しようとして苦しんでいる人たちの姿が、浮かんでくるような気がした」。そして何に使うかわからなかった「おすすめ」商品を一つひとつ、検索サイトで調べてみた。

 タイマー付きコンセントは、自殺した後、扇風機などの電源を入れ、ガスを拡散させて巻き添え被害を防ごうと考えた人が買ったらしい。ポリ袋はガス漏れを防ぐ目的だったようだ。

 警察庁によれば、今年9月までの硫化水素自殺者は876人。昨年1年の約30倍に上る。政府は先月31日、ネット上での自殺手段紹介の防止策を含む、改正自殺総合対策大綱を決めた。

 「自殺」をさがして、ネットをさまよった人たちは、互いの姿もわからぬまま、情報の足跡だけを通販サイトに残した。これはネット空間の陰画だ。「ただ、それを一歩進めれば、人と人とのつながりを目に見えるような形で示せるのではないか」と佐々木さんは言う。

 家族や知人、同僚といった人間関係ではない、情報を軸にしたつながり。それが、ネット時代の新しい共同体の兆しかも知れない。佐々木さんはそれを、「インフォコモンズ(情報共有圏)」と名付け、本にまとめた。目に見えるネットのつながりで、社会はもっと理解しやすくなる――そう考えている。(小堀龍之)

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