グーグルのデータセンター。絶え間なく湯気が吐き出されている=13日午後、米オレゴン州ザ・ダレス市
米西海岸オレゴン州の最大都市ポートランドから東へ、大河コロンビア川沿いに高速道路を1時間半。人口1万人あまりの町、ザ・ダレス市に着く。
川沿いの工業団地の一角に、謎めいた二つの建物が立っている。他の工場と違い、軍事基地のように周囲が高いフェンスで仕切られ、警備の車や黒い服の警備員の姿ばかりが目立つ。屋根の上には金属製の構造物があり、絶え間なく湯気が吐き出されている。
企業の名前や施設の目的を書いた看板はどこにもない。しかし、町を行く誰もがこの建物を知っている。
「グーグルなら、あそこだ」
中年の男性警備員は、「2年前からここで働いている。グーグルってどこにも書いていない理由? 知らないなぁ」という。彼の帽子とジャケットに、控えめに同社のロゴがあるのが唯一の「証拠」だ。
ここは、ネット検索大手グーグルが3年ほど前に建てたデータセンター。設備の詳細は明らかにされていないが、計100万台を超すとも見られる同社のサーバーコンピューターの一部が、ネットからサービスの雨を降らす「クラウド・コンピューティング」を支える。
巨大な建物、立ち上る湯気、張り巡らされた送電線。「情報時代の原子力発電所」と呼んだメディアもある。
まさしく、クラウドはエジソン以来の電力産業にそっくりだ――。情報技術(IT)に関する著作が多いビジネスライターのニコラス・カーさん(50)は、そう考える。
「約100年前に電力会社ができるまでは、企業や個人は、自分の機械を動かすために、水車や蒸気機関といった動力を自分で確保しなければならなかった。ところが送電網が整備されると、巨大な発電所から電力が供給されるようになり、自前で動力を作る設備を持つ必要がなくなった。それと同じようなことがコンピューターでも起こっている」
これまで、プログラムは、個々のパソコンにインストールされたソフトウエアが動かし、データもパソコンの中に保存されていた。
「だが、ネットが単なる情報の伝送路ではないことが、はっきりしてきた。プログラムの機能そのものを、ネットから供給することができるのだ。パソコンの中でやっていたことが、ネットに移っていった」
情報時代の巨大な「発電所」は、世界をどう変えていくのか。カーさんに聞いた。
(米オレゴン州ザ・ダレス=勝田敏彦)