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斎藤環さんに聞く「治癒できる『いじめ後遺症』」

写真:斎藤環さん拡大斎藤環さん

 【西本秀】「いじめ後遺症」って、聞いたことがありますか。いじめの経験が心の傷となり、その後、成長しても、大人になっても、対人関係などに困難さを抱える症状のことを指します。現在、取材を進めていますが、その一環として、精神科医の斎藤環さんにインタビューをしてきました。

特集「ビリオメディア」

 でも、なぜ、ビリオメディア(仮)取材班の一員として、「いじめ後遺症」を題材にするのか。私は当初、生活保護をめぐる問題を取材するつもりで、ツイッターでつぶやいていたのですが、皆さんとやりとりするなかで、一人ひとりがメディアとなるSNSを道具として使う以上、もっと私的な気持ちからつぶやき始めた方が良いのでは、と感じるようになりました。

 いじめ後遺症については以前、「引きこもり」の当事者たちを取材する中で存在を強く感じていましたし、私自身、過去のいじめをめぐる経験が、現在の自分の振る舞いを縛っていると感じる場面があり、気になっていたのです。

 12月9日以降、このテーマについて、私のツイッターアカウント(@xibenxiu)で重点的につぶやいて、私自身がいじめた経験と、いじめられた経験も紹介しています。読んだ方々から、ツイートやメールなどの形で、各自の体験も届き始めており、面会がかなう方からお話を聞いています。

 いじめ後遺症については昨年、名古屋地裁が出した判決で、実際のいじめから5年ほどが過ぎて自殺した女性について、過去のいじめが原因だったと認定する判決が出るなど、一般に認知されるようになってきました。この訴訟の高裁判決が来週、出る予定です。

 後遺症とは、どんな苦しみをもたらすのか。どうすれば防げるのか。治療は可能なのか。以下、斎藤さんに聞きました。

     ◇

――いじめによる「後遺症」とは、どんなものなのでしょう。

 典型的なのは対人恐怖タイプだ。いじめられた経験が傷となり、フラッシュバックで頭の中で再現され、人の輪に入っていけない。街を歩いていても、学生服の集団とすれ違うと恐怖に駆られて隠れてしまう。そこまでいかなくても不安を抱いたり、恐怖心を抱いたり。同世代と人間関係をつくりにくい特徴がある。同質な集団に押し込められる学校の教室で生じたトラウマだ。病院で診察している実感として、いじめは、現代日本で最も多くの心的外傷後ストレス障害(PTSD)をもたらす温床だろう。

――それが、大人になっても消えないと。

 実際にいじめを受けて10年、20年が過ぎて、病院を訪れる例もある。いじめが社会問題化したのは1980年代。そのころ思春期だった40代の患者も珍しくない。発生時に学校は対策をとらず、卒業してからは放置され、そのまま「生傷」を胸に抱えている。引きこもりの当事者がまれに自殺する例があり、私が診た中では、いずれもいじめの被害者だった。中学校のケースだが、大津市で起きた自殺事件をきっかけに、いじめとPTSDの関連性が改めて注目されている。第三者委員会に私も呼ばれ、説明してきた。

――なぜ、今まで「いじめ後遺症」は注目されてこなかったのでしょう。

 被害者が口にしにくい雰囲気がある。いじめられた当時でも相談しにくいものだが、まして過去の経験になると、周囲は「そんな昔のことを今さら」「もう忘れなさい」といった反応だ。被害者は自分の苦しさをだれも理解してくれないと絶望を感じ、口にできない。

 日本社会のいびつさは、いじめ被害者と加害者の極端な非対称性だ。米国では、いじめ加害者こそ「不適応者」の扱いとなる。まさに逸脱行動だから。でも日本の場合、やられた側を問題にしてしまう。「被害者の発達に障害がある」とか、「空気を読めないから悪い」とか。

 大人になっても同じで、日本では思春期・青年期の他害行為が武勇伝としてもてはやされ、「やんちゃ」がほめ言葉になっている。一方、被害者にとっていじめられっ子だったことは「恥」でしかない。そういうキャラクターなんだと、いじめられキャラなんだと、告白しただけで認定される怖さがある。だから言えない。いじめ被害を口にすることが、タブーになっている。

――いじめの行為だけでなく、その後の学校や社会など周囲の受け止めが、傷を深くしているということですね。

 まさにそう。声を大にして言いたい。これほど、いじめが話題になった今年においてすら、学校側はいじめをもみ消そうと加害者の肩を持つ傾向がある。いま臨床現場で対応している例も同じだ。隠蔽(いんぺい)し、被害者に我慢を強いる。甚だしいのは、被害者を批判し、「あなたにも問題があったのではないのか」と迫る。最悪だ。

 それが、被害者に絶望感をもたらす。世界に対する信頼を徹底して破壊してしまう。自分が一番苦しい時に、世間はだれも味方をしてくれなかったという思いは、人間が生きていく上で一番大切な「ベーシック・トラスト」、基本的な信頼を根こそぎにし、トラウマになる。

――後遺症が生じないようにするには、発生時にどうすればいいのでしょう。

 まずは親だ。親は、子どもが勇気を出し、いじめ被害を告白してくれたら、絶対に批判しないこと。これは意外と難しい。親の中にも学校とケンカしたくない、事なかれ主義がある。でも、子どもの味方になってもらいたい。これに尽きる。100%味方です。1%も批判してはダメ。たとえ、子どもの被害妄想のような訴えでも、100%支持していただきたい。

――妄想のように聞こえても、ですか。

 そう。明らかに被害妄想であったとしても、味方してあげてほしい。味方をした上で、事実を検証し、何もないと分かると、妄想も緩和される。たとえわずかでも被害があるのに、子どもを疑って傷つけたら、後悔してもしきれない。親が自分の判断で「思い込みでは」と言ってしまったら、もうアウト。子どもの訴えをもとに、学校に検証を求めましょう。

――では、学校はどうすればいいのでしょう。

 学校も、同じように被害者の味方になってほしいが、正直言って期待できない。ただ、少なくとも担任は、親と同じように100%被害者側に立って、加害者指導をしてほしい。犯罪的なものは司法介入も辞さないという立場で。でも、残念ながら、学校の論理は司法介入を恥とする伝統が根強い。

 学校がよくやるのは、被害者と加害者を会わせ、話し合わせ、握手をしておしまいという表面的な取り繕いだ。それではダメ。直接対話で解決するなら、少なくとも1年間は毎週に時間を設け、教師立ち会いの下で話し合わなければならない。1回会って、握手するのは単なる儀式。加害者に対して圧倒的に軽い処罰で、解決にならない。

 また、最低1年間は、加害者と面接して、いじめを繰り返してないかをチェックをしてほしい。加害者の家族対策も大切だ。加害者が虐待の被害者であることもある。別のいじめの被害者であることもある。そうした可能性を考えた上で、配慮のある処罰がいる。

――治療者として、後遺症を抱える子供たち、大人たちへ伝えたいことは。

 病院を訪れた被害者には、「これは治る」と必ず伝えている。治療可能な病気なんだと。同世代の中で傷つけられたトラウマなので、同世代との新たな親密な人間関係を上書きすれば、記憶は解毒できる。トラウマとは有毒な記憶のこと。新しい人間関係で解毒できる。だから、新たな環境を恐れないでほしい。そう伝えて、同じ経験をした者同士のグループの中に招き入れている。

 トラウマの治療には、ほかにも方法があるが、私は単純。「人薬(ひとぐすり)」と呼んでいて、人の中で傷ついた病気を、人の中で癒やす。いじめ被害者は自分自身を承認できないから傷ついているわけで、他者からの承認を繰り返し投与することで、癒やすことができる。

    ◇

 さいとう・たまき 61年生まれ、精神科医。専門は思春期・青年期の精神病理学。著書に「世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析」(角川書店)。ツイッターアカウントは、@pentaxxx

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